Love Game

Love Game in ValentineDay

私には好きな人がいます。

多分・・・いい友達だとしか思われてないだろうし、私の一方的な愛情だけど。
火原くんはきっと、嬉しそうな顔してチョコを貰ってくれるだろうな。
去年もその前も私の弱さで溶けていってしまった生チョコを。
今年こそはちゃんと渡せるかな。





はそんなことを考えながら授業を受けていた。
机の左側に掛けてある鞄の中にはもちろんチョコレートが入っている。
2月14日。
バレンタインデーと呼ばれるこの日、
女の子はこぞってチョコレートを持ち寄り互いに交換を楽しんでいる。
本来は女性が好意のある男性へチョコレートを渡すというイベントなのだが、
ここ近年の高校生は好意のある男性へ渡すことは滅多に無い。
もっぱらお世話になっている先生や友達へ渡しているのだった。
そんな中でチョコを男性へ渡すということは、あからさまに『告白』をしているようなものなのである。

幸い、今受けている授業は音楽の授業だった。

教科担任の金澤先生はがお世話になっている先生の一人で、
彼もまたチョコを渡す対象の一人だった。
授業が終わると早速お世話になっているお礼にとチョコを渡しに行く。


「金澤先生」

「ん？ どうしたんだ？ そういえば授業ボーっとしてたぞ」

「い、いや、そんなこと無いです！」

「そうか？ ま、調子悪いんだったら早めに言ってくれよ」

「そうじゃなくて、日ごろの感謝を込めてチョコどうぞ」


彼は少し驚いたような顔をしていたが、すぐにいつもの飄々とした雰囲気へと戻って。
ささやかな笑みとともにチョコを受け取った。


「お、サンキューな。 そういえば知ってるか？ チョコって教師のステイタスの1つなんだぞ」

「そうなんですか！？ へぇ、いい事聞いちゃいました」

「ま、チョコのお礼情報だな」

「ありがとうございます、ホント」

「気にするな、じゃ頑張れよ。 火原にもあげるんだろ？」

「!?・・・・まぁ・・そうですけど」


何故か事情を知っているという事実に動揺する。
だが実は洞察力のある彼だから仕方ないか、とあきらめたように返事をしてみる。


「じゃあな、次の授業遅れないようにしろよ」

「はーい」


いつもどおりの態度で教室を去っていく彼の授業は、今日最後の授業だった。
担任のSHRが済んだ後、はチョコを配りに広い校舎を奔走する予定だ。
鞄と弁当を教室に置いたまま、チョコを入れた紙袋を持って音楽科棟の廊下を歩いていた。

火原へチョコを渡すために。


「えっ？ おれなんかがもらっちゃっていいの？」

「はい・・・ココじゃ何だし、屋上行きませんか？」

「いい・・けど」


するとそんな艶めいた会話が聞こえてくる。
見えるのは鮮やかな黄緑色をした髪と、どこまでも明るく優しい声。

（火原くん・・・・かな・・？）

嫌な予感が脳裏をよぎる。
だけど気になる気持ちに勝つことができず、そっと近くの教室へ入り、覗こうとしてみる。

が。


「んん〜っ！？」


後ろから急に口を手で塞がれ、教室へと連れ込まれる。
急だったことと、背後から手が伸びてきたことに驚いて声を上げそうになったが、
その手は予想外に長く、綺麗な爪をしていた。
なんとか紙袋を握り締めているの頬を掠めるほど長い髪には、見覚えがあった。


（この髪・・・柚木ッ！？）


やっと開放されて自身を拘束していた柚木の方へくるっと向き直ると、

はため息交じりに彼の名前を呼ぶ。


「ゆのきぃ・・・」


「しーっ」


半ば怒りのに対して、柚木は口元に人差し指を添えて静かにするように促した。
意味の分からない状況に首を傾げてみせる。


「ちょっと来いよ」


「な、何？」


柚木はの手をとると、教室の一番窓際まで引っ張って行った。
そして、少し小声で柚木は言う。


「火原は今告白されてるんだ。 お前は気遣ってやれないのか？」


「・・・・・やっぱり火原くんだったんだ・・」


「ま、チョコをあげるならこの教室に帰ってきてからが妥当だろうな」


「な、なんで柚木が・・！」


「なんで知ってるかって？ そんなの、お前を見てれば誰だってわかるぜ？」


「・・・・・・・」


「そんなに落ち込むなよ。 そんなにあいつが好きか？」


「なんで・・あたしが柚木なんかに言わなきゃいけないの」


「別に、強制はしないさ。 でも火原は鈍い奴だから、ちゃんと言わないと友達のままだ」


「そんなの・・・・・気にしないもん」


「ふーん。 『火原が誰を好きになっても友達やってく』・・・ってとこか」


図星を突かれたことが、心を冷やしていくような気がした。

柚木の皮肉的な言い方もあって、さっきまでの勢いが沈められていくように。


「・・・っ・・」


「図星だろ？ 分かるさ、のことは何でも」


「なんで・・なんで柚木は・・あたしのこと、たくさん知ってるのに・・・」


「火原はそういう奴だからしょうがないだろ」


「うん。 分かってるのに・・・受け入れられないの・・」


今まで仲良くしてきて。
友達の勢いで一緒に花火に行ったりもした。
もしかしたら、あたしの気持ち分かってるのかな？・・・なんて思っちゃうわけだけど。
あたしの気持ちを知ってる上でこんなことしてくれるなら・・もしかしたら、とか。
妙な希望を募らせるだけ。
やっぱりそんな鈍いとこも含めて惚れてるのかな。
それとも、誰にでも優しいから勘違いしちゃっただけなのかな。
・・・・・やっぱ、何を考えても、何をしても火原くんにつながっちゃうくらい、ベタ惚れなんだろうけどね。


「ふーん、乙女な愛し方」


「柚木には・・・そんなに関係ないでしょ」


「さぁ・・どうかな。 俺としては、その方が嬉しいけど」


「な、何言ってんの・・！ 別に柚木に惚れてるわけじゃないもん」


「惚れさせてやろうか？ 火原が、お前の気持ちに気づくまでに」


「っ！？」


生まれて初めてだよ、こんなこと言われるの。
そりゃ、びっくりもするし・・・ドキドキだってするよ・・・。
ましてや柚木みたいな顔の整った人が甘い声で囁くんだもん・・・・。
普通になんて、振舞ってられなくて。


火原へのチョコが入った紙袋を強く握り締める。
柚木はゆっくりとに近づくと、彼女を追い詰めるように、教室の壁に手をつけた。


「そんなに驚くなよ・・これも気づいてたんだろ？」


「な・・なにを・・・」


「俺の気持ち」


「え・・・？」


柚木の顔が近づいてきて、思わず目を瞑る。

怖がるように肩をすくめて身構える。


「・・・・・抵抗しないんだな・・？」


「・・・・・・」


最後の忠告かのように柚木が耳元で囁いたと思った瞬間、の唇には柚木のが重なっていた。


「んっ・・！？」


誰もいない放課後の教室の中で、2人だけが存在する。
ただそれだけのことなのに、世の中には2人しかいないと思うほどの静寂があたりを包んでいた。

もう、どれだけ経ったのだろう。
落とすまいと握り締めていた紙袋。
もう持ち続けるような力すら無くて。
床に手放した。
力の抜けた体を抱きとめる柚木は穏やかな表情でを見つめる。
さっきまでの、意地悪な笑い方なんかじゃなくて。


「・・・」


「あ・・・あたし・・」


「気になるだろう？ 俺が」


「・・・・」


「たくさん悩めよ」


「・・・・・・・・ゆのき・・」


「いいさ。 決めるのはお前だろう？」


「・・・・・・・っ・・」


「火原が気づかないくらいなら、俺が、もらってやる。 。 」


そんなこと、言うような人じゃないのに。
いつもあたしをからかうような言い方ばっかりして。
いつもの余裕のある顔で言ってくれればまだ、冗談だって、自分に言い聞かせられるのに・・。
そんな真剣な顔して言わないでよ・・・・・。
それじゃあ・・あたしがモテてるみたいなんだもん・・・。
・・・・・・・・変だよ・・・。


「柚木の・・・バカ・・っ・・」


「ありがとう」



何してんだろ、あたし。

火原くんが好きだったんじゃないの？

そうだよね？

今は、柚木とキスをしてしまったことの、言い訳が欲しい。

ちょっと好きだった？ 柚木のこと？

今まで、そんなこと無かったのに？

こんなんじゃいっぱい、悩んじゃうじゃない。



だんだんと太陽が傾き始める。
夕日に照らされて、影ができる。
教室にいる2人は無言のまま、何をするわけでもなく。
ただ立ち尽くしていた。


そんな中、廊下を走る人影が見えた。

その影は2人のいる教室の前で止まると、いつもに増して明るい声で2人に声を掛けた。


「あれっ？ 柚木！ も一緒？ ねぇねぇ、聞いて欲しいことがあるんだ！」


それは、一番来て欲しくない人で。

でも会いたかった人。


「やぁ、火原。 どうしたんだい？」


「ほら！」


そう言って火原はリュックサックの中にあるチョコの数々を机の上に置いてみせた。

得意げな、満面の笑みで2人を見上げる。

つられても火原の方を見ると、すぐに目が合った。


「、見てみて！ おれこんなにたくさん貰ったんだよ！」


「そ・・っか、よかったね！ いくつ貰ったの？」


会話が途切れることが怖くて、急いて返事をする。


「5個も貰ったんだ！
　凄いよね！？ おれ、こんなにたくさん貰ったの幼稚園以来なんだ」


「へぇ、さすが火原だね」


「柚木が言うなよな。 毎年車2台使って持って帰るくせに」


「ごめんごめん。 でも今年は1つも貰っていないんだ」


「え？ なんで？」











『本命だけ貰おうと思ったものだから』











の中の。
いろんな関係が崩れるような気がした。


「へぇ〜、意外だなぁ・・柚木って本命いたんだ」


「まぁね」


「誰？」


そう聞くのは、必然。


「」


「・・・・？」


「そうだよ」


「そ・・・・・そっか！ そうだったんだ、おれ、気が利かなくて、ご、ごめんねっ！」


それだけ言うと、火原は慌ててチョコをリュックへ戻す。


「じゃ、じゃあまた、明日ね！！ も、ま、また明日！」


「じゃあね、火原」


「火原くん・・」


「そ、その、。 話とか、相談とか、乗るからさ、ま、また明日！」


慌しく走りながら、彼は教室を去っていってしまった。

床にへたり込むの肩を抱いて、柚木は言う。


「あとはお前の頑張り次第・・・ってとこか」


「・・・・」


「逃げるも戦うもお前が決めることだ。 今日はもう帰ったほうがいいんじゃないか？」


「うん」


「？」


「柚木・・今日は、ありがと。 あげるね」


が差し出したのは、柚木にあげるために作ったチョコ。

ホワイトチョコで『柚木へ』と書かれたブラウニーと一緒に入れたチョコはもう、

夕日で溶けかかっていた。

















あとがき

ようやく書き終えました；
波に乗っちゃえば早いのですが乗るのが遅かったので書くのに時間が・・・（涙
去年にも増してすみません；　自分はすごく切ない気持ちで書きましたが、
客観的に一度読まないと訂正が・・・！！
さて、柚木落ちか火原落ちかまだ不明確なのですが、意見など頂けると参考になります。
どうかお力添えを・・！！！ お願いいたします！！