バレンタインの日に〜火原和樹〜


























今日は2月14日。

女子達にとってはとっても大事な日だった。

もちろんも例外ではなく、前日までその準備に追われていた。

今年作るものは毎年恒例のカプチーノトリュフ。






「えーっと、あとはココアパウダー!」







大きな独り言を家のキッチンで漏らしつつチョコを冷蔵庫から出す。

ついでに昨日買っておいたココアパウダーも。

今は5時30分。

今日だけは早起きをしてみたのだった。






「火原先輩・・・喜んでくれるかな・・・」





ものすごく乙女な考えをしながらパウダーをまぶしていく。

こんなに料理が楽しくなったのはいつだろう、と。

2人の始まりは去年の春。




この星奏学院は普通科を音楽科に分かれている。

そんな中、目立つ先輩を見た。

普通科と音楽科だというのにその先輩は気にもせず堂々と音楽科の制服で普通科校舎に入ってきた。

課題を忘れて荷物を届けに。



その時私も確か課題を忘れて荷物を届けに音楽科の校舎に向かっていた。

たまたま階段ですれ違うときに私が転んだ。

先輩は荷物を捨ててまで私を抱きとめてくれた。






『あ、危ないよ、気をつけてね』


『ありがとうございます。あ、荷物・・・』


『大丈夫大丈夫! おれさ、こうみえても結構体力には自信あるんだ』






そのときは初対面だっていうのに全く緊張とかはしなくて。

ましてや先輩なのにこんなに優しく接してくれることが嬉しかった。

ただ、そのときは私にも仕事があったからずっと話していることはできなかったけど。






『あ、そだ! きみの名前は? おれはね、音楽科3年の火原和樹っていうんだ』


『普通科2年の・・・です』


『そっか、覚えとくね! じゃ、手伝ってくれてありがとう!』





気さくなその先輩はそれからも会うことが多かった。

気がつけば帰る時間が同じだったり。

同じ趣味を持っていたり。

何故か普通科の先輩と会う確率よりも、火原先輩と会う確率の方が高かった。

昼休みには毎日会っていた。

帰りにも毎日会っていた。

いつしか気になって話してみたら、なんだか怖くなった。

ちょっと期待しすぎた自分が恥ずかしくて、何もできなかった。

でも今日は違う。

『バレンタインデー』

この日を利用して火原先輩にいろんなこと聞いちゃおうって。

そう思う。

















そしては朝食を済ませ、学校へと向かう。

手にはチョコレートを持って。






「おはよう!」





会う友達は皆明るくて。

今日だけかと思ったくらいに意外だった。

それも今日のおかげだと。

そんな、全てが上手くいくような気がして仕方ない。



少しして教室に着いた時。

同じクラスの友達の浮いた話を頷きながら聞いた。

まともに話は聞いていない。

だけどそんなことはお構いなしで。


































「おれ・・・チョコもらえるのかな・・・」


「なんだ、火原心配してるのかい?」


「だ、だって・・・」








こちらは音楽科校舎。

休憩時間だということで、火原と柚木が2人で話し合っていた。

内容は、今日について。







「だってさ、おれ・・・まだ何も言ってないし、話しただけだし…」


「ああ、あの2年生の子のことかい?」


「う、うん・・・」


「僕は火原の話を聞く限り、心配ないと思うな」


「そんな・・・! だって柚木は今日だってもうたくさんもらってるし…」


「それは僕の話で、火原は今までできることしたんだろう?」


「たぶん・・・」


「じゃあ大丈夫。自信を持って行っておいで」








まるで壮行会だ。

だが火原は相変わらず落ち着きが無くて、柚木がそれをなだめた。

状況は、火原がこれからを迎えに行くところだ。

もうすでに柚木も普通に地に立っていられるどころではなくて、これからチョコを回収に回るところだ。

一向に行く気を見せない火原はやっと面を上げた。








ちゃん・・・うん! 大丈夫だよね、行ってくるよ柚木!」


「その意気だね、頑張っていっておいで」


「うん・・・柚木ありがとっ!」






それだけ言うと火原はエントランスへと駆け出す。

それを見て柚木は自前の髪を梳いてから呟く。





「あいつなりに頑張ればなんとかなるだろ・・・」



「「「「柚木先輩!!!」」」」






そんな独り言をする暇もなく周りには女子の声援があった。

やれやれ、と内心思いつつ片っ端からチョコを受け取っていった。





一方こちらはエントランス。

火原が今到着したところで。

も今到着したところだった。


そんなエントランスのど真ん中で2人は出逢った。






「っちゃん・・・?」


「火原先輩!」


「あ、こ、ここ、こここ、こんにちわっ! 毎日、さ、寒いねっ」





これは無しだろう、と思うくらいの焦り様で平常心を保とうとした。

しかしそんな努力は無駄に等しく、の脈を早めるだけだった。





「あの・・・先輩、これ・・・」






差し出されたのは綺麗にラッピングされたチョコレート。

しかもカプチーノトリュフだった。






「・・・・・・・・・・・・え?」


「いりませんか?」


「いる! も、もちろん欲しいよっ!!」


「どうぞ」


「あ、あのさ、これってさっ、あの・・・」





緊張しているときほど声は途切れやすい。

でもその声をは真剣に聞いてくれる。





「あの・・・」






火原の声は相変わらず止まったままで。

ついに下を向いてしまった火原には話しかけた。






「好きです」


「・・・えっ?」


「女の子は好きな男の子にチョコレートをあげるものなんですよ? 知りませんでした?」


「知ってた・・・けど・・・義理とか・・・さ・・・」


「今年は義理は作りませんでしたから」






完全に火原より1枚うわてをいっているでも内心心臓バクバクだった。

ただシチュエーションだけが2人の距離を狭めていった。






ちゃん・・・」


「迷惑・・・ですか?」


「ぜっ、全然! おれも、さ・・・!
 ・・・おれも好きな子からしか受け取りたくなかったんだ。今年は」


「先輩・・・ありがとうございます・・・」



「じゃっ・・・帰ろうか。ホワイトデーにはもうおれは卒業しちゃうけど、絶対にお返しするよ!」























それは、絶対に離れない約束。

絶対に忘れられない約束で。









































ちゃ・・・・・・の誕生日っていつだっけ・・・?」









































これからの希望を示す唯一の証。





























「そういう先輩はいつなんですか?」


「おれ? おれはね、12月12日!」


















































あとがき

コルダバレンタインシリーズその3です。
火原っちはなんとなくすぐ照れてる感じがします。
自分よ、というか書くの遅!! もはやバレンタイン過ぎているのですが・・
どうもすみません・・・これからは期日前に書きます故・・・!!
2006,2/14
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