バレンタインの日に〜土浦梁太郎〜


























今日は2月14日。

女子達にとってはとっても大事な日だった。

もちろんも例外ではなく、前日までその準備に追われていた。

今年作ったものは毎年恒例のカプチーノトリュフだった。












「よっ、


「あ・・・おはよ」







目の前にいるのは土浦梁太郎。

同じ普通科で、2年5組の同級生だ。

ひそかにが気になっている人だった。







「どうした? 何か今日いつもと調子違うな」


「そう?」


「ああ・・・何かあったか?」


「いえ、別に何も」


「そうか。じゃ、お前もせいぜい頑張って一日過ごすんだな」


「うん。ありがとう」






たまたま出逢っただけでなんとなく学校まで一緒に歩いてしまう。

そんな毎日が日課になっていた。

もちろん帰りもなんとなく一緒に歩いて帰る。

だからや土浦の周りは2人をはやしたてた。

は嬉しいことこの上ないのだが、土浦は毎日不機嫌そうに周囲を睨んでいた。







「で?」


「・・・・・・・・・何?」


「お前ちょっとは料理上手くなったのか?」


「なに? いきなり」


「だって・・・」






土浦はそれだけ言うとうつむいてしまった。

彼らしからぬ動作で、も少し心配になった。

だけどそれ以上に後の展開に期待を寄せるがあった。

それから少しして、土浦はやっと口を開いた。






「おっ! もう学校だな!! じゃあ頑張れよ!」






そして変なテンションでその場を去っていった。

土浦が居なくなって、自分の教室へと向かった。

バレンタインデーだからということもあったのだろう、男女が一緒にいる様子が目立つ。

朝にチョコレートを渡しそびれたは今更それを悔いる。

どうしてあんな意地を張ってしまったのだろう、と。

そしてなんとなく毎日同じように過ごし、放課後になった頃の出来事。






ちゃんっ!!」


「うわぁ!?」







いきなり背後から抱きついてきたのは火原和樹。

音楽科の3年。

要するに先輩だった。






「あれ? ここって普通科の校舎ですよね?」


「うん」


「どうして火原先輩がいるんですか?」





そう言うと火原は可愛らしげに首を傾ける。

そして少しを見て、こう言った。





「土浦どこか知らない?」


「あ、土浦君探しに来たんですか・・・」


「うーんと、それもあるんだけど・・・まぁいいや! 土浦は?」


「5組にいると思いますけど・・・私クラス違うから詳しくは知りませんけど…」




「・・・ちゃん・・・・・・・・・5組だね! ちゃんありがと!」





それだけ言うと火原は5組の教室の方へと走っていった。

そして火原の目には土浦がはっきりと映った。















「つーちーうーらー!!」


「あ? 火原先輩じゃないですか」


「ちょっと来て!!」






そして連れ出したのは校門前。

火原が良く練習している場所だった。







「土浦っ!」


「何なんですか!?」


「お前・・・ちゃんからチョコもらった・・・!?」


「いや、まだッスけど」


「じゃあ今すぐもらってきてよ」


「なんで俺が?」


ちゃん好きでしょ」





「お・・・俺が?」


「もちろんだとも! だから行って来たら? さっきもちゃん寂しそうだったんだよ?」












すごく唐突な質問だった。


別にチョコをもらうような約束もしていない。

そしてそんな契りも無かったのだから。

何一つ恋人同士である証の無い相手から、一体何をもらえるというのか。

そんな風に悩んでいる土浦を見て火原は言う。








「いいの? 俺がちゃん、もらっちゃうよ」


「・・・・・・・・・・・・」


「なんてね…おれは駄目だったから、土浦には頑張って欲しいな」


「先輩・・・・・・」








そう言って思い出したのはコンクール期間の時にあった合宿。

火原が言い出した言葉に、首を横に振ったのは自身だったのだから。

それを思い出していい加減決心がついたのだろうか。








「先輩、すいませんでした。俺行ってきますよ」


「うん。がんばれ」







それから土浦はサッカー部の脚力を活かしてひたすら階段を登った。

の居る教室へ。















こんな自分を知らない土浦。

自分ではない感覚を感じながらしかいない教室の扉を開く。






「土浦君・・・?」


「なんだまだいたのか? ほら、帰るぞ」


「え? だって火原先輩に呼ばれてなかったっけ?」


「それはもう終わった」









「チョコレート・・・・・・くれるんじゃないのか?」









一気にの心が満たされていく。

たった、その一言だけで。

なんだか嬉しくなって、鞄を置いたまま土浦に抱きついてしまう。







「おいおい、大丈夫なのか?」


「ありがとう・・・」


「別に俺はなにもしてないって」






軽口を叩いている土浦もを抱きしめ返してくれる。

もう、今までの存在じゃない。

きっと近い将来、恋人になるんだ。

2人。














「はい、チョコレート」


「お、ありがとな」


「今年は大丈夫だから安心してね」


「ってことは・・・去年は大変だったってことか・・・?」


「あはは・・・はは・・・」


「大丈夫だろ、が作ったヤツだからな」















その響きが妙に嬉しくて、胸が熱くなった。

初めて呼んでもらった名前は、すごく新鮮に感じるものだった




















あとがき

コルダバレンタインシリーズその2です。
すこぶるハイペースで執筆中でしかも初めての土浦夢です。
なんとなく土浦君と将臣君、菊丸と火原っちが被ってしょうがないのでおかしいかもしれません。
この辺りも精進していきます故よろしくお願いいたします(何
2006,2/9
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