バレンタインの日に〜月森蓮〜


























今日は2月14日。

女子達にとってはとっても大事な日だった。

もちろんも例外ではなく、前日までその準備に追われていた。

今年作ったものは毎年恒例のカプチーノトリュフ。







（月森君・・・知ってるのかな）







そんな考えをよそに月森は音楽室でヴァイオリンの練習をしていた。



一方。

今までバレンタインデーにチョコレートをあげる対象といえば女友達くらいしかいなかったのだから。

まさか今年はこんなことになるだなんて、春は思いもしなかった。

だがこんなところで迷っていても話は進まないので一応包装したチョコレートを持って電車に乗る。






「あ、！」


「あ、おはよ」






中学来の友達の望美がいつもより上げ調子な声の高さで挨拶を交わす。

それに上の空の状態では応答した。







「今日はチョコ持ってきたの？」


「え・・・？」








なんだかその言葉にドキッとした。

毎年同じ質問をされているのに今年だけはなんだか違って。

もちろん曖昧な答えしか出てこなかった。








「ま、まぁ・・・一応ね。ほら、あげる」








そう言って望美に俗に言う『友チョコ』なるものを渡した。

そして望美もにチョコレートを渡した。








「去年は生クリーム入をれすぎて形が崩れちゃったけど、今年は大丈夫なはずだから！」


「うん、分かった。ありがとうね」


「・・・大丈夫？　なんかおかしくない？」






は思考を読まれたような感覚に陥った。






「そう・・・かな？」


「うん、なんかね・・・酔ってる？」


「嘘！？」






思わず大きな声を張り上げてしまう。

しかも予想外に大きな声を。






「あ、ごめんね？　ちょっと心配しただけだから・・・」


「そう・・・」


「月森君のことでしょ？」


「・・・・・・・・・うん」








姉御肌の望美はその反応を見て腕まくりをした。

そしての前に立って1人演説を始めた。








「いい？　！！」


「はい？」


「放課後になったら最初にエントランスに行きなさい！」


「・・・なんで？」


「そりゃあ音楽科とばったり会うような場所っていったらあそこしかないでしょ！」


「そっか」








演説のような勢いで話し出す望美に軽くあいづちを打ちながら話は進む。

は受け身で聞いているようなものだ。

だが望美の言い方は何よりもリアルで心惹かれるものだった。








「その後！　すぐには月森君に会いに行かない！」


「あ、人気あるからだ」


「そう！　最初のうちはファンにつかまってるから1人になったときがチャンスだよ！」


「うん」


「頑張ってきてよ…」







心強い望美の応援によって、授業は難なく乗り切ることができた。

そして待ちに待った放課後。



は荷物を持ってエントランスへ向かう。

あまり急がないで、ゆっくりと。







「キャーーーっ！！」






エントランスの一角で女子生徒の黄色い声が飛び交っていた。




（月森君！？）




そう思って近づくと、それは柚木様ファンクラブの一団だということに気づく。

一気に興ざめしてしまう。

それも仕方が無かった。

彼は音楽科のエリートで、自分はしがない普通科の生徒で。

そんな接点なんてまるで無い2人だが、何度か図書館や音楽室で会うたびに仲良くなっていた。

出会いは1年の最初で。

音楽科の校舎に迷い込んだを助けてくれたのが月森だった。

それ以降なんとなく荷物を届けに行けばいつものように月森がいて。

今では毎日屋上でヴァイオリンを弾いている月森を見ることが日課になってきたほど。





（だいたい・・・好意なんて全く無いだろうし、相手にもされないのかもしれないな・・・）





『好きだ』 とか、そういう感情は一方的にだけが感じているものなのかもしれない。

だが相関関係があるのかもしれない。





そんな風にいろいろ考えているうちに刻々と時間は過ぎていく。

はエントランスの2階に登り、上からたくさんの生徒の青春を見守る。

もちろん1人で。

ようやく柚木の一団の嵐も収まったかと思った頃。






「さん？」



「あっ…」





目の前に居たのは　 望んでいた人。

何故だかは分からないけれど、居るのは月森蓮そのものだった。





「どうしたんだ？　今日は屋上に居なかったから少し心配になったんだ」


「そう・・・ごめんね、心配掛けて」


「いいや、さんにかけられる心配ならいつでも」





いつもの他愛の無い会話なのか、

それとも苦しい想いをにさせるための意地悪なのか。

どっちにしろにとっては胸が痛むようだった。






「ありがとう・・・」






でも月森が好きだ。

そう思ったからこそその痛みは期待や想いと姿を変えていく。

相変わらず普段からは予想できないほど微笑む月森に恐る恐るモノを差し出した。






「あの・・・さ・・・・・・これなんだけど・・・」


「ん？　チョコレート・・・？」


「あげるよ」


「え？　俺に？」


「うん」


























「ありがとう。






　俺もこれが欲しかったんだ。ずっと。


　去年の今日から、ずっと」


「そ・・・そう・・・？」





























「もちろん、好きな子からバレンタインにチョコを貰いたいと思うのは当然のことだろう？」
































「うん・・・当然・・・だね！！」


「本当に・・・ありがとう」


「ううん、私も」


「君も？」


「そう。好きな子にチョコをあげたいと思うのは、当たり前のことだよね！」








「そうだな・・・」












ひと気の無い屋上で、月森はへのメロディを奏でる。

それはいつもよりずっと甘やかな音色で、艶がある上品な暖かさのある音。






「君がすきだよ・・・ずっとね」







そんな小さな願いを。

叶えたのは1つのチョコレートと、小さな出会いと、ほんの少しの勇気だったから。

も誇れるだろうか。

自分を。








「月森君・・・私にも言わせてよね？


　好きだってこと」
















この幸せはいつまで続くのか分からないけれど。

今、この時が全てなのだから。


今はとびっきりの時間を互いに贈り合おう。






来年も、この幸福が続いていますように・・・









願わくば、









永久に。































あとがき

コルダバレンタインシリーズその1です。
最初に書き上げた小説故何か変なところがあるかもしれませんが・・・何かあればご報告ください。
皆さんに素敵なバレンタインが訪れますように・・・受験生の方は頑張って下さい！！（何気に私もです！
2006,2/8

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