Kiss me #04
赤也と2人で今話題のラブ・アクション映画を見に。
もちろん赤也には丸一日空いている休日なんてなかったから、放課後である。
本日最後のレイトショー。
学生さんのお財布にも優しいうえ、家まで赤也が送ってくれるなら帰りも安全だ。
見終われば外はもう真っ暗。
思ったより星が綺麗に見られるんだな、なんて考えながら、帰り道で映画について感想を言い合っていた。
「やっぱアクションは最高っスね!」
「アクションだけじゃなくて、CG使ってたからものすごく動きが素早くて!」
「そうそう!」
興奮しきりといった表情で勢いよく感想を口にする赤也。
彼を見ていると、こちらまで必要以上に饒舌になってしまうようだ。
「そうだ、ロマンスも素敵だったよね!」
「そうっスね」
今回見た映画は、三角関係の恋を描いたもの。
ヒロインが恋をした人は恋人にするには障害が多すぎる人。
そしてもう一人の青年は何も障害は無いが、ヒロインにとって友達以上恋人未満だった。
ということでさんざんアクションを交えて葛藤するという話だ。
性格を例えるなら美しい月のような青年と燃える太陽のような青年の二人とロマンスだ。
「男目線だと、あんまり綺麗すぎる男って何考えてるのかわかんなくて怖いっス。
ほら、幸村部長とか柳先輩みたいに」
「あー、わかるかも」
「でしょ!?」
「あの2人で考えるとものすごく納得した」
「それにあのヒロインってずっと一人で悩んで考え込むじゃないっスか」
「そうだね、しんどそうだった」
「俺は惚れた子にはもっと頼りにしてもらいたいですけど」
「きゃー!何それすごくきゅんきゅんした!」
2人でしばらく笑いあう。
ふと笑い声が途切れて赤也が真面目な顔になる。
なんだか胸の奥がドキッとしたから勢いで話を続けた。
「私がヒロインだったら、何の障害もない彼を選ぶと思う。絶対幸せになれるもん」
「安全な恋の方が好きなんですか?」
「うーん、というより積極的に攻めて来る人が好きなのかも!」
そう言うと赤也は少しの間空を見上げる。
私がなにをしてるの?って声をかける前に目線を私に戻してニカッと笑う。
「俺だって攻める男っスよ!」
不意打ちとはこういうことなのかもしれない。
満面の笑顔でこんなに素直な言葉を掛けられては、言葉が喉で詰まったかのように出てこなくなる。
私は今どんな顔してるんだろう。
きっとぽかんとしたまま赤也のこと見てる。
赤也そのことに気付くとバツが悪いかもと思って、できるだけすぐに笑顔を作ってみせた。
「そうかも。赤也は熱い男だしね!」
「あ、いや、センパイに言われるとなんか・・」
ダメだ、今日は赤也といると変なムードが寄ってくる日だ!
「あー、ごめんごめん!
にしてもあの2人のキスは素敵だった。いや、もはや接吻だね!」
「あぁ、そういえばセンパイってキスに恋してるって仁王センパイが」
「おうおう、やっぱりそんなこと吹き込んでたのかあいつ」
「あんまり気にしてないっスよ」
「いいの!キスにも接吻にもロマンがあるんだから!」
また沈黙が変な空気を伴って2人の周りを支配しだした。
この話題はダメだったかな?
少しバツが悪い気持ちを抑えながら上を見てみる。
相変わらず濃紺の空にはかすかに星を見てとれる。
夜空に散らばる星はずっと同じ場所にあるのに、家に着くのは思ったより早かった。
家の前で簡単なお別れをすると、赤也は暗がりの中へ全力疾走していった。
次の日。
昼休み前最後の授業は体育だった。
胴が長いせいで長座体前屈では異常な数字を叩き出すのことだ。
柔軟性には自信があるので器械体操は楽しみな授業のひとつである。
勇んで体育館へ向かうと用意されていたのは跳び箱。
「うわ」
前転やら側転は得意。
でも跳び箱はあかんって。
なんだか跳び箱はできないのよ何故かわかんないけど!
そう思いながら跳び箱の列に並んでいると、の脳裏によからぬ映像が浮かんだ。
昨日赤也と見に行った映画の1シーン。
派手なアクションをかます美男美女たちの映像だ。
先に跳び箱へ向かっていく友達が2人、3人とクリアしていく様子を見ていると、
なぜだかなんでもできる気がした。
「次、!」
ホイッスルが鳴るのを聞くと、はぼーっとした頭のまま走りだした。
そして、鈍い音とともにの視界は暗転した。
「ん・・・」
ぼんやりと目を開くと真っ白。
そっか、寝てたんだ。
だんだんと意識が覚醒してくると、この場が保健室だということに気付いた。
そしてベッドの上から布団に何かの重みが感じられることも。
「・・・・・赤也」
赤也が寝ている。
ベッドに上半身を預けるようにして寝ている。
こんなに静かなのだから、授業中なのではないか。
その前に先生はいないのか。
たくさんの疑問が浮かんだが、その答えを確実に知っている本人は寝ている。
・・・・・選択肢はひとつしかない。
赤也を起こそう。
そう思い立ったは上半身を起こして赤也を見た。
少なからず彼の体は動いたはずなのだが、まったく起きる気配はなかった。
真田とか呼んでこないと起きないのかな。
そこまで行動する元気がないので今は目の前で健やかに寝息を立てるこの少年を覚醒させるしかない。
「ね、赤也」
今度はとんとんと肩に触れてみた。
変化ナシ。
仕方ないので肩をつかんで揺らしてみる。
「ね、先生は?」
思ったよりがっちりしている肩の感触に少しどきりとする。
照れ隠しに先生はいるかと尋ねてみる。
好奇心で赤也に顔を近づけて表情をうかがってみると、目がうっすら開こうとしていた。
なんとなく目を合わせてしまうかと思うと気恥ずかしい。
顔を離そうとすると、赤也のがっちりした腕がの背中に回っていた。
「!」
「・・・せんぱい」
「な、な・・に?」
あ、これは寝ぼけてるわ。
そう確信があった。
それでもいやな気持ちは湧かなかった。
むしろ、赤也のうっかりにかまけてもう少しはこのままでもいいかなとさえ思えた。
やけに周りが静かになったような気がする。
「赤也?」
「ん・・・・・センパイ」
「なあに?」
しばらく沈黙が流れたあと、赤也はかすれた声で言う。
「あれ・・・先輩?」
かわいい
穏やかな気持ちだけど、心臓はどきどきしてた。
「おはよう」
「どうしたんスか・・?」
「先生っている?」
赤也は腕を解かなかった。
肩越しに見える動かない包帯や薬品の景色をぼんやりと見たまま。
「いませんよ」
でも赤也の声がなんだか魅惑的で、誘惑的で、驚いて思わず体を離してしまう。
すぐに捕らえられた視線はもちろん離れられなかった。
なんでそんなに挑発的な目をするんだろう。
「どんな夢・・みてたの?」
その誘惑に惑わされまいと紡いだ言葉さえ、甘えた声になって出てきてしまった。
返事はすぐに返された。
もちろん、悪魔的な目はそのままで。
「センパイにキスする夢」
心臓がときめく間も無かった。
まだ驚いてさえいないのに、私は目を閉じていて、唇に柔らかなものが重なる感触がある。
そして、その感触を楽しんでいる自分がいた。
しばらくすると唇は名残惜しそうに離れた。
赤也の酔ったような目。
私も酔いしれてた。
「赤也・・もう一回・・・キスして」
当たり前のように目を閉じて。
当たり前のようにキスをして。
今度は少し、深いキスをした。
「センパイ・・・順番逆だけど、好きです。付き合ってください」
心が満たされた気分になって、
思わず笑みがこぼれると、
今度は私から赤也に口づけた。
「ふふ、お願いします」
あとがき
もう、いいんです。
別に描写する力がまったくなくても今はいいんです。これから精進します!
これここで終わったほうがいいのかな、終わったほうが良いですよね!
ホントに!ここまで読んでいただいてありがとうございます!
BACK