Kiss me #03
今日の放課後はいつもと違う。
なぜなら目の前にはブン太がいて、私の方を向いて椅子をまたぎながら座っているからだ。
どうやら今日は部活が無いらしい。
ただ仁王がいないのが変な感じではあるが、夕陽の差し込む教室の中、2人で黄昏れているというわけだ。
「私ってピュア?」
しばらく窓から景色をぼんやりと見ていたブン太が少し驚いたような顔をした。
「どういう意味だよぃ?」
「ちゅーしたいって連呼するの、やらしいかな」
するとブン太は深いため息をついた。
そういえば、今までキスの会話は3人でいても仁王がリードしてきた。
もしかしたら苦手なのかも。
短い沈黙のせいでそんな面倒なことを考えそうになる。
「まぁ、綺麗ではないよな」
「うわぁ!」
ほめられたわけでもないのに、照れたのか恥ずかしいのか、
なんとも形容しがたい感情がお腹から胸のあたりまで上がってきた。
「うれしはずかしちゅーしたい病だ!」
「なんだソレ」
「なんだろ、あははっ!」
おかしくて2人とも吹き出して笑った。
なんだかとても心地いい。
やっぱりこれだからブン太といるのは楽だ。
すると笑い声は、大げさな教室のドアを開ける音でかき消された。
「センパイ!」
片仮名表記でセンパイなんて言葉を使うのはひとりしかいない。
相変わらず夕陽に負けず劣らず眩しい笑顔にくらくらしてしまいそうだ。
「どうしたの?」
この教室に赤也のセンパイは2人いる。
ブン太に用事だろうか。
部活の話なら早々に立ち去ったほうがいいかも、ややこしくなる前に。
「センパイって英語得意でしたよね??」
耳をついたのは予想外な言葉だった。
それに返事をするのはのはずなのに、次に聞こえた声はブン太のものだ。
「天才的に得意だぜ、は」
「誇張表現だからね、赤也」
「なんたってキスばっかりしてる洋画にハマってるらしいし!」
「まぁ・・・あながち間違ってはいないよね」
「ははっ、マジっスか」
赤也はラケットの入った鞄を隣の机の上に置く。
どこかから椅子を持ってくるとの席に向けて座った。
「センパイ、ちょっと教えて欲しいとこがあるんスよ」
「赤也英語勉強してるのかよ!?」
「珍しいね、なにかあったの?」
「ま、まぁ・・それはいろいろあるんス!」
「ふふっ、ドラマチックな話なら是非聞きたいなぁ」
「そのうち話しますよ」
「え!? 何その気になる言い方!」
「赤也のくせに何ミステリアスになってるんだよ」
「酷い!」
冗談混じりの会話で場が和んだところで、赤也はあまり使われたことがないであろう英語の問題集を取りだした。
予想通り使われた形跡はあまり見られない。
本当にどんなきっかけがあって英語を学ぶ気が起ったのか想像もつかない。
「あ、メールだ」
ブン太の携帯電話が光った。
赤也とは気にも留めずに問題集を開いた。
「中2の英語でつまづいたら高校どうすんのよ」
「そしたらセンパイに教えてもらいますよ」
「えー、私ずっと赤也の家庭教師なの? 適当なとこで報酬を要求するわ」
「げっ! お手柔らかにお願いしますよ・・」
「あははっ、そこはノリツッコミが正解でしょー!」
メールを読み終えたブン太は自分の机の横にかけてある鞄を取りだした。
「どしたの?」
「悪ぃ、仁王のとこ行かなきゃいけなくなった」
「部活の話っスか?」
「いや、個人的な話」
「最近私の周りって隠し事多いんだけど。 傷つくわぁ」
「話すまでもない事なんだって。 気にすんなよ」
「ま、分かってますけどね!」
「じゃ、行ってくるわ。 お疲れ」
「お疲れ様っス!」
「またねー!」
2人で手を振り、ブン太が見えなくなると勉強会は再開された。
「で、どこが分かんないの?」
「うーん、こことか?」
「これはちゃんと単語の意味を覚えたら分かるよ」
「へぇ」
「これは受動態でしょ」
「うーん、聞いたことはあるんですけど」
「そうかいそうかい」
相槌をうつだけの赤也に、も教える気力がなくなってきた。
「ねぇ、中2の英語くらい頑張ってよ」
冗談めかして言ってみる。
「無理っス」
「なんで?」
「生まれつきっス」
「あはは、ここまでできないとなるとそうなのかも」
「でしょ!」
2人して大笑いをしてしまった。
いけないいけない、英語の話だったのに。
「赤也も洋画見たらいいのに」
その言葉を聞いた赤也は、問題集をぼんやりとしか見ていなかった目をこちらへ寄こした。
「どしたの?」
「じゃあ連れてってくださいよ、映画」
「映画? いいね! ちょうど見たい映画あったんだよね」
「よっしゃ! じゃあ日付だけさっさと決めちゃいましょうよ!」
英語の話より、遙かに目をキラキラさせて赤也が言った。
それから週末に映画を見に行くという約束をした。
私のクセかもしれない、簡単に人と約束してしまうのは。
見に行くのはもちろんキスシーンがあると思われる映画。
今、テレビでCMをよく放送しているアクションの中にもラブロマンスの要素がある話題作だ。
果たして字幕を赤也が見てくれるだろうか。
そんな考えを巡らせながら、赤也が出した問題集の中で宿題に充てられていた問題を解き終えた。
あとがき
さて、週末は赤也と映画デートするぞー!
気を利かせたブン太が何気に可愛らしいです。さすが弟の為にプラモデルを作ってあげるお兄ちゃん!
赤也の悪魔加減がうまく表現できなくて苦しむのう、この作品;
なんにせよ、ここまで読んでいただいてありがとうございます!
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