優しくて社交的な、ひと










優しくて社交的な、ひと。

それはきっと、一番厄介な恋の相手なんだって・・・あたしは思ってる。



高校に入学して・・・もう2年目。

やっとできた大好きな人はもう3年生で・・近くにいられるのも夏まで。

だから、学年の同じひとに惚れなかった自分がすこしだけ残念。

でも、先輩のことがすきだっていう気持ちは大事にしたい。


今この瞬間の想いを、薄めるのがすごく嫌だ。







今日もやっと午前が終わって、一時の休息時間になった。



「よっ! なんだ、どうしたんだよ?」


「なんだ、桃ちゃんか。別に」


「別にってことないだろ!? 幼馴染じゃねぇか!」



グーサインを笑顔に添えて気遣ってくれる桃ちゃん。桃城武。

あたしの幼馴染。

桃ちゃんはあたしが先輩のことが好きってことを一番に気づいた人。



「・・・・・・」


「なんか・・あったのか?」


「いやー、なんかねぇ」


「聞くぜ? 屋上、行こうぜ」


「え? でも・・・」



手首をつかまれてされるがままに屋上に連れ出される。

道中、あたしたちのことを噂してる人が何人もいる。

ふと見た景色の中に、先輩の姿を見た気がした。



「・・・っ・・」



屋上に着くと、桃ちゃんは急にあたしの手を放す。



「なぁ、その顔どうにかならねぇのかよ。いい加減見飽きたっつの」


「ごめん」


「『ごめん』じゃなくてさ、俺はのその顔をどうにかしてやりたいんだよ」


「・・・ありがとう」


「その・・あと少し・・・だろ。 不二先輩達が引退するまで」



突きつけられた現実に胸が冷えていくようで。

無意識にこぼれ出そうとする涙を瞳にいっぱいためた。

泣かないように空を見上げると、どこまでも澄み切った、清々しい空があって。



「泣くなよ」


「・・泣かないよ。先輩が『お願いだから泣かないで』って・・言ってくれたから」


「そっか、結構クサいこと言うな。不二先輩も」


「・・・・・あのね、あたしも打開したい。こんな状況。

 優しいし、社交的な人ほど本心が見えなくて・・。

 だからすごく心配なの・・・・っ!」


・・・」


「みんなに向けてる言葉より、あたしにくれる言葉の中になんとかして『特別』を見出したくて・・っ

 先輩の中に、卒業してもあたしの存在を残しておきたいの・・

 ボタンだってもらえないかもしれないけど・・。

 『さん』って、もう呼んでもらえないのは寂しくて・・・

 あたしがいたっていう証が、先輩の中にあって欲しいから・・・っ!!」


「・・だから。 泣くなって言ってるだろ」



桃ちゃんがその言葉を放ったと同時に、あたしの体を暖かい腕が包んだ。



「泣かれちゃうと、すごく戸惑っちゃうんだ。僕」


「不二先輩・・・・?」



顔を上げると、見慣れた優しい目と自分の目が合った。



「泣かないで」



テニスをしているとは思えない綺麗な指であたしの涙を拭うと、

いつもと変わらない笑顔であたしに話しかけてくれる。



「ほら、昼休みが終わっちゃう前に・・お弁当食べようか」



急な出来事に動けなくなる。

なんで不二先輩がいる?

桃ちゃんはなんでいなくなったの?

あたしは、なんでこんなところに来たの?



「怖い・・・」


「?」


「怖いんです!! 先輩が社交的だから・・先輩の美徳があたしの不安になるんです・・・」


さん・・・」


「本音を言って欲しいんです。

 本当のあなたに・・・会いたい・・」




知ってる

本当は知ってます

先輩は好きな人なんていなくて

テニスが一番好きで

サボテンが好きで

信じられないくらい優しさでいっぱいで

わけ隔てなく人から愛されてて



そんな人に愛されたいと願うのは


やっぱり傲慢だって


知ってる

そんなに優しくしないで

他の人と扱いが同じみたいで苦しくなるから


そんなに気にかけてくれると脆い部分が露になるから

見苦しいんだもん


幻滅しちゃうでしょ?


あたし、わがままなの

受け入れて欲しいなんて思ってない



ただ




嫌いにならないで欲しいの

それだけで十分



あわよくば


そばにいたくてしょうがないから・・・・・






近づきたいって思うの










そう・・思うだけでも自分勝手で見苦しいよ

なんて傲慢な女なんだろ・・・











初めて呼ばれた自分の名前にドキッとする。

あたし、恋してるんだ・・・



「僕は部活を引退するよ。

 でも忘れないで欲しいんだ。

 絶対、僕がを泣かせないから・・一緒にいて」



思わず涙がこみ上げてくる。



「また・・・先輩のせいで泣いちゃいますよ」


「じゃあ全部拭ってあげるよ」


「ありがとう・・ございます・・・」


「ほら、ご飯食べないと午後集中できないでしょ」













不意のキス

というよりも、口移しのランチ







こんなに幸せだなんて、逆に不安でしょうがないよ。





不二先輩・・・・・
























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