おめでとう。






6月の11日。

私が京に残るって言ってから少し経った。

こっちの世界だと6月は水無月だっけ?

さすがに雨続き。でも、私が神子だった頃には日照りが続いてたから。

ちゃんと雨が降ってて安心・・・・だよね。

そのせいかどうかわからないけどイノリくんはいつもよりテンションが高い。

でも今の私にとってはそんなことよりも大切なことがあるんだ。

今日が。友雅さんの誕生日なんだよね〜。

こっちの世界に誕生日にプレゼントをする習慣とかそういうのがあるのかは知らないけど・・・

でも私の世界はそうだったから、友雅さんにも何か贈ってあげたい。

と言うわけで・・・・

私なりに和歌を作って文にしたんだけど・・・。

そしてもちろん銀色の紙に橘を添えてだけどね。





「あのさ、藤姫。」


まだ幼いが大人びた少女に、は声を掛ける。

すると可愛らしい声が返ってきた。


「何でしょうか?神子様。」


「あのさ・・・今日って友雅さんの誕生日らしいんだよね。」


「そうでしたの?それはおめでたいことでございますわ。」


「それで、今日友雅さんの屋敷に出かけたいんだけど、行ってきていいかな?」



まぁ、もう神子じゃないから物忌みとかに会ってもどうでもいいのかも。



「今日は神子様は北が方忌みですわね。

友雅殿のお屋敷はここから南ですから、大丈夫ですわ。誰かを共にお呼びいたしましょうか?」


「いいよ、私もう神子じゃないんだし。大丈夫だよ。

 それじゃ、行ってくるね〜。」


「はい、行ってらっしゃいませ!!」



って言って出てきました。藤姫様の館を。

南一直線だったよね。



「神子殿?どうなされたのですか?」



「あ、鷹通さん。」


で、そこにいたのが元、八葉で天の白虎の藤原鷹通さん。

前から結構お世話になっちゃって、いい人だよね。



「今日、友雅さんのお誕生日みたいなんです。

 私の世界では誕生日の人を祝うのが基本だったので・・友雅さんのお屋敷まで行こうと思って。」


「そうでしたか。場所は分かりますか?」


「はい、お気遣いありがとうございます。」


「いえ、お気になさらず。では私は失礼しますね。」



そういって鷹通さんは大内裏の方に歩いていった。

しかも一人で。牛車とか・・・いいのかな・・。



そうこうしているうちに着いた、橘の咲いている庭の屋敷。

やっぱり・・・藤原家には藤がたくさんさいてるもんね。

さすが平安の貴族様だわ。



「こんにちわー。」


「神子殿かい?」



一発で声が聞こえてきた。

普通、女房さんが来るのかと思ってたけど、違ったみたい。

でも、すぐに友雅さんに会えたのは嬉しかった!


「友雅さん!お誕生日おめでとうございます!」


勢い余って叫んでしまった・・・。

今思ったら、文渡しても大丈夫なのだろうか・・・。

ここは小天狗ちゃんに頼めばよかったかも!?



「あ・・・(////)」


自分の行動をもう一度よく考えてみると、かなり危ないのではないかということに気づく。

さっき会った鷹通や永泉ならともかく、相手が悪かった。



「おやおや、そんなことを告げるために、君は私の元へと来たのかい?姫君。」


「いや・・・そのっ・・これは・・」



もうこうなったら勢いに任せよう。

ということで渡しましょうか。文。




「あの、これ。お誕生日ですから。

 それじゃっ!」




そしてそのまま逃亡。



「恥ずかしかった〜!」



思わず心の声が表に出てしまう。ここが誰もいない場所で良かったと思える程。

それ以前に誰もいないから・・・今いる場所はとても寂しい場所だった。



「でも私の気持ち。

 ちゃんと見てくれたよね。友雅さん。」



は友雅を慕っているわけではない。

だが、この場合そう取られても仕方ないのかもしれない。

あんなに慌てた様子で文を渡したのだから。






「へぇ。これはこれは可愛らしい歌だね。神子殿は。」


さっそくから貰った文を読んだ友雅は、満足げに微笑んで筆をとった。







『春霞 たなびく山のさくら花 見れどもあかぬ 君にもあるかな』




おわり


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