伝われ、この想い






今日は9月20日。


いつもと違うところは・・・明日は八戒の誕生日だということだ。


それ以外は何も変わったところは無い。


いつものように妖怪と戦って、町を見つけて宿を探す。


違うのは自分の心持ちと、ホテルに泊まっているということだけ。


違うのは窓から見える景色が、妙にロマンチックで。


優雅な印象の豪邸が、丘の上に建っていた。




は、彼と出逢った去年の9月22日から、八戒に惹かれていた。


しかも、人には決して見せないような、そんな仕草で。


それでも八戒を想う気持ちには自信があった。


彼には愛すべき姉がいた

彼には愛すべき仲間がいる





は・・?





自分は八戒の気持ちの中に、どのように映っているのだろうか。




ただの友達?


八戒はとても優しいから。




ただの仲間?



でも、私にはそんなに強い力なんて無い。




他人?



そうなのかもしれない。







「なあ、ッ!!!!」






そんな乙女心の複雑さの上に無理やり華を咲かせるようにやって来たのは悟空で。


八戒と一緒にいると、何故かいつも普段の自分が出せない。


少しだけ・・・ほんの少しだけ背伸びをしてしまう。


だから。


今のままの不安定なからしたら、


悟空や悟浄達と他愛無い世間話に花を咲かせるのも悪くない。







「悟空?どうしたの?」







相変わらず悟空はいつもどうり、しがらみやねたみとは無縁な華の笑顔を向けてくる


それでには、少なからず笑顔になった。









「なんかさァ、この町いつもより大きいじゃん!

で、八戒と悟浄がさっき買い物に行って、なんかあって、行こうって言って、」








こんな話がうまく伝わらないのも悟空らしく、は思わず微笑む。









「あははっ、良く判らないよ?

要するに八戒と悟浄が買い物に行ったときに何か見つけてきたんだよね?」







「うん!そうみたいなんだ!!」






「そうなんだ!じゃあ、みんなで出向くしかないね!」






「やったーッ!!も行くんだよな!?俺、悟浄と八戒に言ってくる!!」






「わざわざごめんね?ありがとう。」






まさかこんなにうまくコトが運ぶなんて。


思ってもみなかった出来事だった。


もう今日は夜も遅いこともあるし、当の三蔵が少し前の戦闘で傷を負っている。


おそらく明後日まではこの町にいるのだろう。







「タイムリミットは明日の夜までか・・・・頑張れ、私!」






今いる場所が宿屋の客室の中でなかったら。


いったい何人の人がこの独り言を聞いていたのだろうか。


そんなくらい、今晩の町のにぎやかさは派手だった。







そんなことを考えつつ、何のイベントなのだろう。

今さら考えても仕方が無いことなのだが。

その時、の部屋のドアが勢いよく開いた。





〜!!!!!!!」





悟空並みに元気を振りまいている紅い髪の男の人――――悟浄。


ドアを開けた勢いでに抱きついてきた





「わっ、ちょっと、何?今日悟浄変だよ?」






それもそうだ。


いつもの紳士らしさが少し欠けていた








「べ〜つに。

それよりさァ、?」






「な、何でしょうか?」







「俺と一緒に踊ってくれませんか?お嬢さん♪」






「え?」





いきなりこんなことを言われたのなら、誰だって驚くだろう。


『踊る』ということは、イベントとははしゃぐものなのだろうか。


はあまりハメを外すキャラではない。


少し・・・困った。







「今日のパーティー。

まぁ、明日もあるらしいんだけどな、正装さえすれば誰でも参加できるんだと。

飲み食いし放題だって言ったらあのサルも一緒に行くっていいやがってよぉ。」





「ふ〜・・・・・・ん。」






は可愛らしく首をかしげて考えた後、結論を出した。





「私達、正装ってどうするの?

今すぐ持ってないでしょ・・?ね?明日もあるんだから。

なら、明日いろいろとそろえてから参加するってのは?悟浄は嫌?」





「別にいいけど。」




「じゃあ決まりね!!」




そう口元に指をあてて微笑むと、は再び窓から華やかな豪邸を眺めた。


届かぬ夢を持っているシンデレラのように。


5分くらい経っただろうか。


まだの部屋でくつろいでいる悟浄に、ふと声がこぼれた








「ねぇ悟浄。」




「どした?」





「あれって誰の家なんだろうね。」






「ああ、あの家な、この町の名誉町長の屋敷なんだと。

しかもかなりの財産家。

そんで祭りごと好きで、毎月20日と21日には定期的にパーティーなんだと。」






「よく知ってるね。」





「そりゃあ、八戒が言ってたからな。

カッコいいだろ?」




そういって悟浄は笑ってみせる。


もつられて微笑んだ。




「あは、そうだね!」







「じゃあ、そろそろ私寝るから。

また明日ね!」





「へぇ、俺は朝までいちゃいけないの?ん?」






「だ〜め!じゃあね!」





半ば追い出すように悟浄を部屋から出して、ベッドに入る。


明日起こるであろう計画に、目を輝かせて眠る。


小学生が遠足の前日はうきうきして眠れないような、懐かしい感覚。


その時ドアに、ノックが響いた。







「誰ですか?」




「あ、夜中にすみませんねェ、八戒です。」




その声を聞いた瞬間


の脈が速くなったような気がした


その嬉しさと緊張の入り混じった気持ちで、恐る恐るドアを開ける。


そこにいたのは、いつもよりも真面目な顔をした八戒だった。






「ごめんなさい、鍵閉じちゃってて・・・」






「いえいえ、いいんですよ、それより明日のこと、聞きましたか?

は、あんまり騒がしい所は苦手でしたよね?

すみません、いきなり行こうなんていいだして。言い出したの、僕なんですよ。





―――――――――――貴方と踊ってみたくて。」









「わた・・・し・・と・・?」







願ってもみない嬉しい言の葉。






「違う、それは私の思ってたこと・・・。

こちらこそ・・・」






「そうですか!?それはよかったです。

じゃあ明日、一緒に出掛けましょうね、おやすみなさい。」






バタン。






「・・・うん、行こうね、八戒。」





















9月21日。


ずっと前から楽しみにしてきた、八戒の誕生日。


それは予想していたことよりも遙かに心が躍るような出来事。


がいるのは、一階にあるレストラン。


今日だけは悟浄と悟空と離れて朝食を食べた。






なんとなく、雰囲気創ろうかなって・・・思ったんだ。


だって今のままじゃきっと失敗して後悔する。


そういうことは未然に防がないと・・・。





自分の中でそうつぶやきながら八戒とホテルの前で待ち合わせる。





「すみません、待たせちゃいましたね。行きましょう!」



「はい・・。」








結局華やかで優雅なパーティーに悟空を連れて行くのは恥ずかしいので、


悟浄が悟空のお守をすることになった。








「おいサル、と八戒、どうなると思う?」




「どうって、今までどうりだろ?みんな仲良しじゃん!」




「あーあー、分かってねェなァ、お子様は。」




















「さて、まずは衣装ですか。

はどんな感じのドレスが好みなんですか?

僕なんかは、普通の正装でいいんですけどね。」





「私かぁ・・・なんだろ、色の綺麗なやつとか・・?

青がいいな♪」





その直後。


八戒の元には店の店員がいて話し合っていた。




「あの、彼女なんですけど、青色で彼女に似合うドレスってありますか?」





「では、こちらにいらしてください。」





「は、はい!」






そして10分後に出てきたのは、私服を来ただった。




「あれ?ドレス着ないんですか?」




「ちゃんと着るよ、パーティーでね♪」







その後三蔵のゴールドカードで支払いを済ませ、二人はもう夕暮れの町を歩いた。


昨日の出来事、ダンスのこと。


他愛無い会話でも、には幸せだった。








時は9時





ホテル室内で気合を入れてドレスアップしたは、ホテルのエントランスへ。


螺旋階段をゆっくり降りて、八戒の元へ。





ドレスアップしたを見た八戒は微笑む。


正装姿の八戒を見ても微笑む。


そして二人は手を取り合って、会場へと向かった。









会場に着くとそこには華やかな宴が催されていた。


普段の二人からは考え付かないような、優美なホールで優雅なワルツ。


もちろん二人も、ダンスの輪の中に入る。






  「って、意外とワルツ踊れたんですね。」



八戒が茶化すように言う。




「意外とって酷いな〜!上手いでしょ?」







それからどれくらいの間踊っていたのだろう。


いい加減その輪から抜けて、ホールの一角にあるテラスに二人はいた。






「八戒さ、今日誕生日だよね、おめでとう。」























「あはっ、僕はいけない人なのかもしれませんね。

実は、今日はそれを言って欲しかったんですよ。に。」







「・・・え?」








「好きなんですよ。がv」






いつにもまして優しげな笑みを浮かべて


  八戒はを抱き寄せて囁く。






「・・・うん・・・・・私・・も。」






嬉しい







今までいろんなことを考えすぎていたのか。


何故かの瞳からは涙がこぼれていた。







「ありがっ・・・と・・う。」








「いえ、僕だって、僕なりに悩んでましたからね♪

じゃあこれからもよろしくお願いしますよ?・・・。」











十六夜の月から二晩欠けた月が二人を照らす夜。


二人の影は一つに重なっていた。












fin.




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