僕の願い


















これは少し前。

2月11日の話ですが・・・









僕はいつものように早起きが苦手なさんを起こしに行く。

すると既に譲君が彼女を起こしている。


出遅れましたね。


だけど僕の手にはそれ以上の幸福があるんです。

今までの人生で変わり果てた僕の色を輝かせてくれたのは神子。


さんなんですよ。
















「あ、おはようございます弁慶さん」


「おはようございます。今日もよく頑張って早起きしましたね」


「もちろん! 皆に迷惑はかけたくないですし」







君はいつもそう。

そんなに無理をしてまで僕達を気遣ってくれるんですね。

僕はこんなに、君に頼ったままで。


情けないですね・・・。






「ありがとうございます・・・」


「・・・え? 大丈夫ですか? 弁慶さん!?」






僕はそのまま突っ立ったままで。

正確に言うとさんのことを考えていたんです。ずっと。

そのうち僕もまともに彼女の顔すら見ることができなくなってしまって。













嬉しい。



愛しい。








すごく、











失いたくない。






僕の今までしてきたこと。

それを考えてみれば・・・さんは僕なんて軽蔑すると思いました。

けれど・・・









「すみません・・・先に行ってますね、もう朝ごはんだそうですから・・・」


「あの・・・大丈夫ですか? 付き合いますよ?」


「いえ、僕は大丈夫ですから、君の笑顔を見せて下さい・・・僕に・・・」







事件が起こるのはいつも唐突で。

ただ、ただ君を利用したという結果になってしまったけれど。

僕も、君を想っていたつもりで・・・。
















まるで言葉にならない、僕の台詞。







今更後悔しても遅い、僕の記憶。




もっと・・・もっと君に知ってもらいたかったんです。


僕の弱さを知ってもらいたかったんです。


本当は僕がずっと助けられていたのかもしれません。


感謝していますよ ― 君には。



















さん」


「あ、もう大丈夫なんですか?」


「ええ、ご心配をお掛けしました。ありがとうございます」


「何かあったら、いつでも言って下さいね!」






そう気兼ねなく言う君は可愛いですね。

その無邪気な君の色は、僕の色とは相反する色。


八葉だと言われていても、君を守ることさえできていない。






「いえ、逆です」


「え?」


「何かあったら、いつでも言って下さい」


「弁慶さん・・・?」


「僕がお手伝いしますよ」







一瞬戸惑った君だったけれど、

すぐにいつもの花の笑顔を見せてくれる。

こんな言い方、ヒノエのようですね。







「ありがとうございます」







そう、僕はその言葉を聞いてすぐに立ち去ろうとしたけれど・・・。

その時君の優しい声が僕の気を止めてくれた。







「あの、弁慶さん」


「どうかしたんですか?」


「早速、ちょっと付き合ってくれませんか?」


「いいですけど・・・どこへ行くんですか」


「内緒です!」






そう言って君は僕の着物の袖をつかむ。

まだ幼い顔立ちだというのに、君はしっかりしているんですね。

きっと僕よりも強い、僕の愛しい人。




2人で向かった先は清水寺。

此処に来るのもずいぶんと久しぶりになる頃です。








「ほらほら、こっちに来て下さい弁慶さん」





そう言いながら僕に手を振ってくれる。

招かれた先は舞台。





「何かあるんですか?」


「別に何も無いですけど、お話したくて」


「そう・・・でしたか。それで、お話とは何でしょう?」


「最近なにかありましたか? 暗いですよ?」





そう言われた。

僕はそんなに変わっていたでしょうか。

変わったことなんて、君が気になることだけ。





「そう・・・でしょうか? すみません」





そして僕はいつものように笑顔で誤魔化す。

けれどさんの表情は強張ったままでした。






「あの・・・間違ってたらごめんなさい。今日は弁慶さんの誕生日だって聞いて・・・」


「・・・そういえば・・・そうだったのかもしれませんね・・・」


「あれ? 自分の誕生日って普通は覚えてませんか?」


「いえ、僕は誕生日といっても特別何かが変わることはありませんでしたから」






そう言ったら君は黙り込んでしまいました。

でもすぐに立ち直って。





「弁慶さん、おめでとうございます! 何かできないかって思ったんですけど・・・」





君はこんな僕の誕生日を祝ってくれるんですか・・・。

今まではそんなことなんて一度も無かったですし、気にもしなかったのですが。





さん」





僕もまだまだ未熟ですね。

こんなに理性を保つことができないなんて。





「わっ!?」

























抱きしめた君は温かい。

そして無垢です。

僕の遠い存在です。

僕の









愛しい人です。


























「すみません、僕なんかを気にかけてくれて」


「・・・・・・いいんですよ、私は弁慶さんに元気出して欲しかったから」


「ありがとうございます・・・」








そして

僕の方に向き直った君は言う。
















「いいんですよ。私、弁慶さん大好きですから」



















ここまで来れたなら僕には怖いことなんて一つも無かった。

素直になれた。

君のおかげで。















「ありがとうございます。僕からも言いましょうか?」
















そう言うと君は頬を赤く染めてうつむく。

そして慌てて言う。













「い、いいですよっ、分かりましたから・・・」













やっぱり君は可愛い人ですね。

僕は、いけない人なんでしょうね。















でも僕は君に返さなくちゃならないんです。















今までのお礼、たくさんの想いを抱かせたお返しに。












僕もたくさんの想いを、








君に伝えましょう。
































いつか僕の元から帰ってしまう・・・君に。





















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