強く






















三蔵一行がいるのはとある宿屋。


と出逢ったこの町で、もう少しだけ旅の準備をすることになったからだ。


前にが引き起こした『アレルギー』で町の中を走り回ったおかげで、『神子が目覚めた』という噂は町中に流れた。


下手をすれば長安にも伝わっているのかもしれないと思うくらいの速さでそれは移動した。


だが肝心の本人は、少しずつではあるが心を開いていって。


『桃源郷を救う旅』らしい心構えを身につけていった。














「なぁ、ッ!」



「ん? どうしたの?」



って戦えるのか?」










『戦う』


その言葉にはドキッとした。


自分は戦えるのだろうか、という不安が募って止まない。


の知っている限り、『最遊記』の世界での戦いははっきり言って今までの戦いよりも激しい。


一応戦えることは戦えるが、三蔵一行のように強くはないのだろうか。








「なぁ、どうなんだ?」







内心浮き足立っているに対し、悟空は目を輝かせてこちらを向いている。


いくら三蔵一行の中で一番小さいとはいえ、160cmしか無いからは悟空は大きく感じられた。


だがいつまでも悟空を見上げることもできなくて。


いい加減返事をどうするか考えた。








「悟空はどう思う?」



「え? 俺?」



「そう。悟空は私が戦えるように見える?」



「ゴメン・・・俺さ、は戦えなさそうだって思ってたんだ。守ってやりたかったからさ」



「そっか」



「うん。でもさ、俺はとも戦ってみたいんだ!

 だってさぁ、もし戦えるんだったらめちゃくちゃ強い気がするんだ」













自分が強い?


そんな文字がずっと頭の中に居座り続けた。











「あのね、悟空」



「どしたの?」



「私ね、一応戦えるんだと思う。でもそれは悟空とか三蔵みたいな強さじゃないと思う」



「・・・」



「だから・・・私に稽古。つけてくれないかな?」














は話しながら悩んだ末、なら『強くなればいい』と。


そう思ったのだった。


ただ足手まといになるよりも、神子として選んでくれた観世音菩薩に報いねばいけないだろう。










「も・・・ちろん!!!

 なぁなぁ、じゃあいつにする?? それとも今??」







また悟空に笑顔が戻った。






「さすがにここじゃあ・・・やっぱり外に出ないとね」



「そうだな! じゃあ行こうぜ!! 外ッ!」







強引にの着物の裾をつかんで、一目散に今いる宿屋から出た。


外の天気は快晴。


まだお昼前で、吹き抜ける風がなんとも心地よかった。







、どうする?? とりあえず戦ってみるか??」



「そう・・・だね、それがいいよ」






悟空が連れてきたのは宿屋の中庭。


昼前のせいか人は誰もいなくて。


緑になりつつある芝生の絨毯の上に悟空とが立つ。






「じゃあまずは・・・お手並み拝見!! っていうんだっけ?」



「あはは、そうだねッ!」






久しぶりに笑いながら、悟空はに向かって走ってきた。


もちろん戦いの経験はある。


一応実力もある。








「ちゃんと避けてくれよなッ!」



「もちろん」







が取り出したのは、扇。


一直線につっ込んで来る悟空の攻撃を扇を開いて、舞うようにかわした。


そして扇を再び閉じ、悟空の膝に正面から突かせて体制を崩させる。


・・・・・・・・・見事とでも言うのだろうか。


ただの攻撃でもなんでもなくて、はただ舞っているだけだ。








「へぇ、強いじゃん!」



「そ、そう?」








悟空はの技によって転びながらそんな会話をする。


もちろん本気ですらないのだろう。


こんな手合いは1対1では効果はあるだろうが、団体さんがいらした時にはほとんど無力だ。









結局2人の決着はつかずに、もう太陽が真南に昇りきっていた。


もちろんこんな時間に悟空が戦いを続ける理性など毛頭無かった。










「腹減ったぁ〜。

 ー、もうそろそろ止めにしようぜ・・・俺もう腹減って動けない〜」



「もう、悟空ってば・・・」



「ホントもう駄目ッ! メシぃ〜」



「じゃあ、行こうか?」



「合点♪」











そんな勢いで2人は自室まで戻った。


中に居たのは八戒1人だけだったが、相当心配していたようだった。







さん、悟空」



「「はい・・・」」



「悟空はともかく、さんはまだこのあたりをうろつくのは危険です。それ・・・」








自身の心配性からか、必要以上にに対して忠告を付け加える。


黙って下を向いたままは苦笑していたが、悟空は何かいいたげな顔をした。







「でもさ、八戒。

 って強いんだ!」



「そ・・・うなんですか・・・?」



「え? そんな強いというわけでは」



「でもさッ! 俺と互角にやりあったんだぞ? すっげぇ強かった!」






八戒は呆気に取られた表情で。


悟空は自慢げにの戦い方について語る。







「でさ、でさ! そこで扇子みたいなの出してさッ!」



「そうなんですか〜、さすがは神子様ですね」



「いやぁ・・・(扇なんですけど」







このままこの調子が続くと夜にもなりかねないので、はとりあえず昼食を提案してみた。


その単語を発した瞬間悟空かた生気ががっくり減って、『メシ』と連呼し始めた。








「はいはい、じゃあ行きましょう。きっと三蔵達も待ってますよ」



「うんッ!」



「そうだね」







悟空は全速力で部屋を出て行った。


そして八戒と2人で階段を降りていく。











「はい?」



「すみません、あんなに責めちゃって。

 ただ、貴方が心配になっちゃっただけなんです」



「いえいえ、全然問題ないよ」



「あは、それは良かったです。

 僕も貴方が戦えなかったら今度はどんな策を練ろうかと考えてたんですけどねェ」



「それは・・・どうもありがとう」












他愛無い会話が、何だか新鮮で。


こんな日常がこれからは滅多に無くなるのではないかという不安がよぎる。


でも、今を大切にできるということはそれだけ時間を上手く使えているということで。


ただの旅じゃない。


世界を救うにとって2回目の旅が始まるのだ、と。


そんなことを考えつつ、そんな時でさえ大人数に有効な技の開発に労力を使っていた。












さん?」



「あ、はい!」



「敬語ですか?」



「あ・・・ごめん」



「冗談ですよ。

 本当に面白いですね、は」



「あ・・・あははは・・・」























(まぁ、楽しくなりそう・・・かな?)


















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あとがき

実は神子様は戦えるんです。
目指すは遙か3の望美ちゃんのような『舞うように戦う』ということです。
でも2の怨霊としか戦わない神子様が妖怪と戦うの、大変でしょうね…

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