神子という肩書きの少女
「初めまして。僕は猪八戒といいます。
あなたのお名前、まだ伺ってませんでしたよね?教えていただけませんか」
話が始まって早々壊れそうなヒロインに、我先にと話しかけたのは八戒だ。
だが、三蔵一行が全員同じことを思っていた。
『名前』
とにかくそれが必要である、ということを。
「あっ、すみません」
自分の社交性の無さに我に返ったは、急いで名前を告げる。
「です。
初めまして」
そしては軽く礼をしてみせた。
それも優雅に。
「さんですか、よろしくお願いしますね。
この仏頂面な人が・・・」
「玄奘三蔵だ」
またも珍しく八戒の言葉を遮って名を名乗る。
それに続いて、残った二人も自己紹介を始めた。
「俺、孫悟空! よろしくなッ!」
「俺は沙悟浄。 呼び捨てでよろしくな、ちゃん♪」
「あ、私はです」
一通り自己紹介が終わったところで、は慌てて名前を言った。
「あははッ! 、さっき名前言ってたよな?」
「えっ!?」
別に面白くもなんとも無いだろう、といった顔で三蔵が悟空を見る。
悟浄もそうだ。
だが悟空は相変わらずの驚きように爆笑していた。
八戒だけは、その4人を見て微笑んでいた。
「さて、さん。
まずはお話をお伺いしましょうか」
「そうですね、私のことでしたらできる限りお話します」
とりあえず悟空の爆笑を止めがてら次の予定を立てる。
八戒の丁寧語につられても丁寧語になった。
「では、一旦ここを出ますか? 三蔵」
「・・・そうだな」
『外に出る』
この言葉に思いのほか反応を示したのは白龍。
その意味を聞いたとき、白龍は小さく。白竜にかわっていた。
「俺腹減ったよ〜八戒。
だったらさ、どこか食べに行こうぜ?」
「ったくウチのおサルちゃんは。こんな時でも飯の話か?」
「いいじゃん、別に!
飯の話が嫌なんだったら悟浄は一人で外にいればいいじゃん!」
「こんのサル!!
てめぇこそ外でたって餓死でもしてやがれ!」
三蔵達にとってはいつもの喧嘩。
にとっては漫画で読んだとはいえナマで見るのは初めての喧嘩を目の当たりにした。
だがもちろんここは寺院の中だ。
うるさいとすぐに御坊にみつかるだろう。
「あの、悟空さん、悟浄さん、ここは寺院の中みたいなので・・・」
「「げ」」
「もう少し静かにしてくれませんか?
それにここは女人禁制じゃないですか? 三蔵さん」
「そうだな」
「だから私もここにいてはいけないと思うんです」
もっともな意見だった。
これから桃源郷という世界を守ろうとしているのに、女が居ては不利だ。
だがそんなの謙虚な態度を、誰も受け入れはしなかった。
「大丈夫ですよ。仮にも貴方は以前に世界を救った神子様じゃないですか」
「・・・え?」
「だったら誰も貴方を敵視したり、追い出したりしませんよ。」
「でも・・・」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ。
お前はしらねぇだろうが、さっきまでこの寺院の坊主共は桃源郷の行く末をお前にすがってたんだ。
寺院のど真ん中で拝まれるような奴が追い出されるわけねぇ」
説得力のある二人の励ましで、も少しだけ安堵感を覚えた。
そして、励ましの声が続く。
「そうだな、ちゃん。
たとえそんなことがあろうとな、俺の懐に隠れてりゃあ安全よ?」
「あ、悟浄はやめといたほうがいいぞ。
八戒の方がよっぽど安全だし!」
「お前、八戒を知らないからそんなことが言えンだよ・・・」
「何か言いました?」
「「いえ、何も」」
話もひと段落ついたところで、八戒の提案と三蔵の沈黙による了承で、
結局レストランへ入ることになった。
「じゃ、行きましょうか」
と言って入ったのは中華レストランだった。
「じゃあ俺は・・・・・・」
「あ、今回は軽食ですからね?悟空。
まだ朝ですし、朝ごはんはジープの中で食べたでしょう?」
「ちぇーッ」
「ご注文は何に致しましょうか?」
「だそうです。
さんは何にしますか?」
「え? でも私ここの通貨持ってないし・・・」
「ああ、いいんですよ。全部三蔵持ちですから。ね? 三蔵」
「・・・・・・」
「ほら、OKだって言ってます」
「え?(言ってませんよ」
とにもかくにもオーダーを済ませた。
たかがオーダーに20分も掛けてしまったのは昼ごはんまで待とうとした悟空の策だ。
結局少し早いが昼時になってしまい、三蔵は多額の出費を強いられることになった。
「仕方ありませんね、貴方はどうしますか?」
「・・・じゃあ私はスープスパと
水で」
水は注文するものではありません。
「すみません、じゃあこれとこれと…」
八戒がメニューを読み上げるのに5分、ウェイターさんがメニューを読み上げるのに6分。
結局お昼時真っ只中になってしまい、さすがに三蔵の眉間にも皺が寄る。
「チッ」
舌打ちをしたところで状況は何も変わらず、三蔵はタバコを吹かし始めた。
だが、その時。
「ゴホッ、」
咳き込んだのはで、目にはうっすら涙が浮かんでいた。
うつむいたまま4人の声にも耳を貸さず、そのまま意識を手放した。
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あとがき
自分で読んでみると神子様が倒れ過ぎのような気がします…
でも、この話は後々面白いことになるフラグの話のつもりです!
どうぞお楽しみに♪
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