白竜
「キューvv」
そして白竜が停まったところには、かなりの大きさの寺院が建っていた。
『この中に入れ』とでも言うように、白竜は奥へと進む。
三蔵も、文句をいいつつ白竜についていった。
そして、3つほど部屋を通り過ぎると、広間に突き当たった。
その広間の中心には、なにか大きなモノが見える
「なんだ?あれは。」
まるで水晶の如く透き通った氷の中に、和服、とでもいうのだろうか。
ひだのあるスカートにブーツ。
そして優しい色合いの帯を締めて、着物の襟元が儚げな顔立ちによく映えている。
そんな女性。
いや、まだ少女なのだろう、そんな少女が氷づけになって封印されていた。
「これは・・すごいですねぇ・・・・まさかこんなに大掛かりな封印だなんて・・」
この光景に、さすがの八戒も少し驚きの顔を見せた。
何より彼女の・・・神子の表情が。
その表情が三蔵一行のみならず、その場にいた何人もの僧侶を惹きつけて放さない。
「マジかよ・・・・なんだよアレ・・・本当に19なのか・・?」
「ってかさ・・きれーな人だな・・」
この場所が寺院だということを忘れていたのだろうか。
それとも状況をわきまえた上で言っているのか。
どちらにせよ、人を酔わせるような表情と。三蔵でさえ見とれてしまうような容姿と。
龍神と意思を疎通させることができるという神子の能力。
3つが揃った『龍神の神子』とは、まさに完璧な少女だと。
そう4人に思わせた。
それはさておき神子を封印してある広間に、氷を囲むように何人もの僧侶が祈る。
何を祈るか。
そんなこと、知れているだろう。
この、名ばかりの『桃源郷』を陥れている妖怪や、その黒幕だとか、そんなことだ。
その僧侶のうちの一人が三蔵に気がついて寄ってくる。
「これはこれは・・・」
「何だ?」
珍しく三蔵の苦手な堅苦しい雰囲気ではあるものの、
何の棘も無い応答に、一人微笑む八戒の姿があった。
「三蔵法師様・・・・・」
「悪いが、勝手に入らせてもらった」
「いえいえ、滅相もございません」
そして八戒が、気がついたように確認の意味を込めて僧侶に問う。
「すみません、あの方はどなたなのでしょうか?」
すると先ほどまでの驚いた目を輝かせて僧侶は話す。
まるで本人を見たことがあるかのように。
まるで今にも『龍神の神子』は封印が解けて動き出し、桃源郷を救ってくれるかのように。
「あの方は、龍神の神子様です。
お若いのに100年前に、この世界を怨霊を封じることで救った御方です。
その頃にも各地に禍々しい力がはびこっていたとか。
今の桃源郷も、神子様にすがるしか手段は無いのかも知れませぬ・・・」
「そうですか、ありがとうございます。」
「いえ、それでは私共はこれで失礼します。
この寺院は民に開放されているが故、三蔵様方も神子様を拝見なさってはかがですか?
それでは失礼します。」
そういうとその場の僧侶は全員広間から出て行った。
途中、三蔵を見て目の色を変える者は全て、三蔵に会釈をして去っていった。
すると残ったのは三蔵一行のみ。
思いついたように悟浄が言う。
「で、どうすれば封印は解けるんだ?八戒!」
と、言われると八戒は口元を歪ませた。
なにしろ自分はもともとそういう結界を破るとか、そういう技術は持ち合わせていない。
聞くなら三蔵だろう、と思った。
「さぁ・・・どうすればいいんでしょうねぇ・・・
いっそのコト、この氷、砕いてみちゃいますか?三蔵?」
八戒がそう言った直後、今までおとなしく八戒の肩に乗っていた白竜が神子へと近づく。
「キュー?」
白竜がそう鳴くと、氷が一気に溶けはじめた。
悟空に言わせれば、『カキ氷にシロップをかけたような溶け方』だとか。
まさにそのような溶け方で、みるみるうちに氷の形は神子を模していく。
あっけにとられた4人は、しばらくそのまま動けなかった。
「すげぇ・・・すっげぇ!!!すごいよ白竜!!
お前こんなこともできるんだな!さすがだよッ!!」
一番最初に沈黙を破ったのは悟空。
なにより4人の中で一番神子に会うことを楽しみにしていたのは彼だった。
だが全く反応がない3人によって、悟空も落ち着き、封印が解けきるのを待った。
そしてそのまま時間が過ぎると、『龍神の神子』は姿を現した。
それと同時に、さっきまでの周りの張り詰めた緊張感もほぐれ、白竜にも変化が。
「あれ・・・?どうしたんだ?白竜?」
悟空が白竜の変化に気づくと、
白竜からは銀色の光が発せられていた。
その光はだんだん大きくなっていって、人を模した形になった。
見た目から言えば、三蔵にも引けを取らない美青年だ。
「白竜・・あなた・・・」
今までほとんど共に過ごしてきた八戒でも、この姿を見るのは初めてだった。
自分の知らない白竜を、この『龍神の神子』とやらは知っているのだろうか。
白竜は誰より先に『龍神の神子』の封印が解けたことを察知して神子に駆け寄った。
そして解けた氷水で冷え切って、服もぬれている神子を抱きしめて囁いた。
すると『龍神の神子』は半開きだった瞳を露にした。
右目は海の色。
深い、でも透き通ったシーグリーンの色をしていた。
左目は空の色。
毎日毎日絶えずにその色を変えていく空のように、好奇心や、希望。
そんな美しすぎるくらいのスカイブルーの色をしていた。
「私の神子・・・・大丈夫・・・?」
「「「「私の神子ぉぉおお!?!?」」」」
「っていうかさぁ!!!!
アンタがミコサマっていう人なのか!?」
悟空が久しぶりに、妙にテンションの高い声でオッドアイの神子へ声を掛けた。
新しいおもちゃを見つけたときの顔よりも、ゲームに勝った時の顔よりも。
ずっとスッキリした顔で。
一方、神子の方は冷えて疲れきった体に言うことをきかせようとして、無理やり笑顔を作って悟空に見せた。
「・・・はい。あなた方は・・・?」
そこで珍しいことに、三蔵が自ら名乗り出た。
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あとがき
いきなり文章の量が増えました!
次回の神子様のルックスが遙か2の花梨ちゃんと違うことに気づく。
その辺りは気にしないで読み進めてください。すみません。
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