氷の矢

















午前6時。

見事に5人全員爆睡中の三蔵一行が眠る部屋に、半おばさんが不規則な足音を響かせながら入る。

そして、唯一まともに布団を被っていた八戒の掛け布団を思い切りはいだ。



「起きろーっ!!!」



尋常でなく大きな声に全員の目は覚まされた。



「何だよオバチャン、まだ6時じゃん」



強引に起こされた立場で悟空は答える。

だが肝心のオバチャンの声色は一向に代わりもしなくて。



「それどころじゃないんだよ、旬麗知らないかい?」


「旬麗がどうかしたのか?」


「どこにもいないんだよ!

 村のウワサ話を聞いちまったみたいで・・・」


「噂・・・だと?」


「ああ、昨晩西の森に現れて人間を襲った妖怪が・・・茲燕によく似ていたって・・・・」



その言葉に全員が凍りついたような気がした。



「まさか旬麗は・・1人でそこへ・・?」






そんなこんなで一行は半ば強制的に旬麗救出に向かったのだった。



「ったく、何考えてンだよ旬麗は!!」

「なァんも考えちゃねーだろよ。愛しい男のこと以外はな」



白竜の全力疾走によって着いた森の中。

八戒はとジープを目印として一点に留まることを促す。

そして4人は旬麗の名を呼びながら散開していった。



2人取り残されたは、やりきれない気持ちをため息に込めた。

すると車だった白竜は銀色の光とともに青年となる。



「どうしたの? 神子」

「別に・・・なんか、また残されちゃった」

「うん、神子のその気持ち、伝わってくる。 私達はつながっているから」

「そっか・・・」



つながっている。

今まで忘れかけてた。

私は神子で、白龍は龍神なんだってこと。



「天の玄武・・・泉水が思い出されるの?」

「・・・・ちょっとね」

「彼は今、冷えた気持ちでいるよ」

「・・冷えた?」

「うん」

「そっか、やっぱり戸惑ってるんじゃないかな。 お母さんだと思ってた人が違う人だったから」


白龍の表情が固くなった。


「気をつけて」

「え?」

「嫌な感じがする。 きっと敵が来るよ」



そう言われるとすぐに、背後から妙に嫌な声が聞こえた。

2人が振り返ると、そこにいたのは耳が隠れる程度の髪を持つ青年の妖怪。

下品な笑みが板についた妖怪だ。

その右手には少し大きめのナイフを持っている。



「なァんだ、仲良くしてるとこ悪いな」

「・・私の神子に手は出させない」

「おお、怖い怖い。 でも・・ま、三蔵一行の女を見逃すわけにはいかねぇ」

「私が狙い?」

「大人しく俺に食われてくれるってか?」

「アンタはパスかな」

「よく喋る女だな・・・・・死ねェっ!!」



低い声で叫ぶと同時にナイフがに向かって投げられる。



「・・!」



それをはじき落とそうと構えると、目の前には白龍が立っていた。



「木気は私の力・・・五行は世界を構築する要素だよ」



そう言うと突如ナイフは強風によって地面に落とされた。



「白龍! そんなことしたら、力が・・!」

「大丈夫。 あとは任せるね、神子」

「・・・・任せて頂戴」



そして白龍はジープへと変身する。



「ッ・・・なんだ、あの力は!?」

「残念、知らなかった? 五行の力」

「知るかよ、そんなの!!」

「そっか、それはもったいないね、私が教えてあげるよ」



は右手に気を集中させる。

それは、水気。

表面張力が働いているように球体となった水は、やがて鋭い氷の矢となる。



「水気。 まぁ・・『氷の矢』とでも言っておきましょうか」

「ま、待てよ!」

「ごめん」



後ろに引いた手を勢い良く妖怪に向けて振ると同時に、氷の矢は妖怪めがけて飛んでいく。



「ぐッ!」



その矢は当然の如く妖怪の体を貫き刺さる。

間もなくその矢は水となり、妖怪の体には大きな穴だけが残った。



「うわぁああああああ!!」

「痛い?」

「ッったりめーだ!!!」

「そんなこと無いよ、それ、幻覚」



が言うと彼に開いていた穴は無くなり、元同然に戻った。



「お願い、ここから立ち去って」

「・・・・クソッ!!」



妖怪はやがて地面を這いながら森を出て行った。

戦場となった場には少量の水だけが残った。




しばらくすると、三蔵達4人が旬麗を連れて戻ってきた。

安堵したように微笑むと、は彼らのほうへ走っていった。



「大丈夫だった??」

「ぜーんぜん、楽勝よォ。 チャン」

「やめてよ、ちゃん付けは」

「すまんねー」

「ってことで旬麗をジープに乗せたいので悟浄と悟空は歩いて帰ってきてください」



すかさず八戒が切り込んだ。



「「えー」」

「あ、いいよ、じゃあ私が歩いて帰るよ」

「それは駄目です。 が悟浄に手を出されかねませんから」

「俺はケダモノかよ」

「じゃあさ、三蔵後ろ乗ってよ! 俺八戒の隣の席に座りたい!!」

「ふざけんな。 この猿が」

「えー! 助手席♪ 助手席♪助手席♪助手席♪助手席♪助手席♪・・・」

「あーもう、死ねよこの猿。好きにしやがれ」

「やったー!」

「じゃあ俺はと夜道を2人きりで歩いてくるわ」

「・・・・・・・・」

「そんなに心配しないでよ、八戒」

「・・・・・・わかりました。 悟浄、くれぐれもに触らないように」

「へーいへい」

「気をつけてくださいね、

「うん!」



そして旬麗を連れてジープは森を抜けていった。

2人残されたと悟浄は、とりあえず歩き出す。



「どーしちゃったのよ、

「どうして?」

「俺に女を語らせたら長いぞ?」

「・・そうだったね」

「どしたの? もしかして、俺に惚れちゃった?」

「・・・・別に、今日は・・・夜風に当たりたい気分だったから」

「それはダメだな、風邪でも引いたら俺が八戒に殺されるっての」

「あははっ、そうかもね」

「だから・・・・」



悟浄はの背中を抱きしめた。



「寒くねェだろ?」

「でも・・歩けないから」

「そりゃ悪かったな」

「・・・・走ろっか」

「おっ、久々の青春か?」

「お先に!!」


それだけ言っては駆け出した。

悟浄も後を追った。

旬麗の家に着いたとき、2人は息切れで死にそうだったとかなんとか。






次の日。

三蔵一行は早朝から出発だった。

相変わらず眠り姫を間に挟んでじゃれ合う悟空と悟浄。



「・・・しっかしアレだな、フリーのイイ女はなかなかいねェよ」

「くだらねーな」

「お前ねー、女に興味ないなんて病気だぜビョーキ! それともホモ?」

「・・・撃ってもいいか?」

「一発じゃ死にませんよ」



そのとき悟空がトランプを座席の下から見つけた。



「あーッ!! 昨日のトランプ!! てめぇやっぱスリ換えてやがったな!? このイカサマ河童!!」

「過去のことにこだわんなよ、モテねぇぞ、猿吉!」



そのとき車体が大きく傾いた。



「ああっ?」

「・・・おい、もしかして」



眠り姫までもが目を覚ます。



「・・・・静かに寝させてよ・・・もう・・・」

「だあああッ!!」

「やっぱり撃つ!!」
















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あとがき

自己中なヒロインですよね。
せっかくなんだから悟浄の話聞いてあげればいいのに。
・・って書き終わって読んだらそう思いました;
「氷の矢」のイメージはFF7ACに出てきた「ブリザガ」で、
オリジナルで出てきた妖怪さんのイメージはアンジェのアリオス(マジかよ!!
声は浜田賢一(無茶苦茶だ

そういえば「ハタチの恋人」見ましたけど面白いですよねー(私情すみません
では、ここまで読んでいただけて本当に感謝に堪えません! ありがとうございました!

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