洗濯美女

















度重なる妖怪の襲撃にも耐え続け、

ただのんびりと今日もジープに乗った5人組が桃源郷を移動している。

そんな中、悟空の叫ぶ声が上がった。




「あッ、ちょいタンマ!! てめェ今カードすりかえただろ!?」


「てねェよ! 目のサッカクじゃねーのー?」


「じゃあ今捨てたカード見せてみろよッ」


「ヤダね」


「〜〜〜このエロ河童ぁ!!」



憎たらしい悟浄の返事に逆上する悟空と、その2人の間で騒音に気づく気配も無く眠り続ける眠り姫。

この5人の中で唯一の女性であり、神子という神から加護を受けた彼女には五行の気を操る能力がある。

だが第一印象が凄いために、このギャップには三蔵一行といえど少し驚くものがあったようだ。

もっぱら最近は慣れてきたようだが。




「悟空、悟浄、が寝てるんですからちょっと静かにしてあげてくださいよ」


「だって起きそうに無いよ?」


「こらえてるかもしれませんよ?」


「そっか・・・じゃあ寝てる間俺が悟浄から守っといてやる!!」



そう言うと悟空は悟浄の肩に頭を乗せて寝ているの肩を抱き寄せた。

そんなことをしてしまえば悟浄も相手が相手だけに文句を言うわけで。



「てめェ、何しやがる!」


「だって可哀想じゃんか! 『悟浄が来たら女は隠せ』って昔教わったかんな!!!」


「誰だよそんなこと言ったのはよォ!! 三蔵かッ!?」


「知るか」


「なんなんだよ!!!!」


「あはは、賑やかでいいですねー、も気持ちよさそうですしね」


「あるかチビ猿!! ああ!?」


「やらいでか!!」



2人のヒートアップする様子を見るに見かねた三蔵が慌てて叫んだ。



「降りてやれ 降りて!!」


「今日もまたにぎやかですねぇ」



八戒は相変わらず穏やかな表情を浮かべ、は悟浄と悟空の間ですやすやと眠っていた。

が。




「あッ バカ、危・・・・・・」



悟浄とつかみ合っていた悟空が八戒にぶつかったのだった。

三蔵は今までに無いほど大きく口を開けて叫んでいる。

長身の悟浄も車体が揺れる反動に耐え切れずに嫌な汗をかいていた。



「うお?」


「あら?」


「!!!!」


「どわあぁあ!!」


「え、あ、いやあぁぁっ!!!」



そしてその落下していく不思議な感覚にいい加減目を覚ましたも加わり、

悲痛な叫び声が響きながら5人を乗せたジープは、川へと落ちたのだった。













川に落ちて最初に浮いて出てきたのは悟空だった。



「ぷはぁッ」



そして、『だああ』という下品な声と共に悟浄も水面から出てくる。

三蔵は恐ろしいほどに黙っていて、八戒は寝たまま溺れるを左手で抱きかかえながら助かる。

の頭の上には、先ほどまで車だった白竜が止まっていた。



「冷てえッ」



三蔵は悟浄と悟空の頭を髪ごとつかみ、水面に押しつけて叫んだ。




「死ね!!! このまま死ね!!!!!!」




、大丈夫ですか?」


「あ・・・おはよう、八戒。白竜も」


「キューv」


「って寒ッ!? どしたの!? みんなして濡れちゃって・・・」


「全ての原因はあの2人ですから、後で殴っといてくださいね、







そんな風景を見て、少し近いところから上品に笑う声が聞こえた。

5人は無条件に洗濯物を抱える彼女を見た。



「あ・・・ごめんなさい、あんまり楽しそうだからつい・・・・・・」


「あはは、そうだよね。私も最初はびっくりしちゃったの。」



誰よりも先に覚醒したが彼女に話しかけた。

そしてさらに握手を求めてみる。



「私の名前はっていうの。あなたは?」


「旬麗よ」


「よろしくね、旬麗」


「ええ、よろしくね、



いかにもいい友達的な挨拶をしている2人も含め、

6人と1匹は旬麗の好意によって服を乾かさせてもらえることになった。



「服を乾かすならウチの村まで来ませんか?
 笑っちゃったお詫びに熱いお茶でも」




































旬麗の家には大きめの庭があって。

そこには洗濯用の干し竿がいくつもあった。

その1つに三蔵一行の着ていた服が並び、5人は旬麗の家にある服を貸してもらって生き延びていた。



「あっ、タオル足りた?」


「うん、バッチリ足りたよ〜ありがとね、旬麗。服も貸してもらっちゃって・・・」


「どういたしまして、私のだから少し大きいかもしれないけれど」


「男性陣ならもうすぐ出てくると思うけど・・・」



がそう言うと、タイミングを測ったかのように4人が出てきた。



「すみません、服までお借りしちゃって」


「ううん、サイズが合って良かった」



その時、三蔵が冴えない顔をしているのを、は見逃さなかった。



「どうかしたの?」


「いや・・・一人暮らしのわりに若い男物の服があると思っただけだ」


「ああ、それはね、」



が真実を話そうとしたとき、家のドアからノックする音が聞こえた。

その音を聞くなり、すぐに優しそうなおばさんの声がした。



「旬麗! アタシだよ、入っていいかい?」


「あ おばさんだ、どうぞ!!」



ドアから入ってきたのは、眩しいくらいに優しそうなおばさんの姿だった。

その手に持つものを見るなり、悟空の目が輝きだす。



「お隣りの半(バン)おばさん。 料理が凄く上手いんです」


「お昼ごはん作ってきたよ! 皆で食べとくれ」


「うまそー!! これ喰っていーの!?」


「ああ、もちろんさ」



おばさんはあたりを見回して、さらに三蔵一行に話す。



「おやまぁ、色男揃いじゃないか!! あたしもあと10年若ければねェ」


「20年の間違いでしょ、オバチャーン」


「でもこちらのお嬢さんが全員捕獲済みかい? あんたも悪女だねェ」


「えっ!? そ、そんなことないですって!」


「そんなに謙遜すること無いよ、アンタは美人なんだからもっと自信を持ちな」


「はーい」





一気に場の雰囲気になれたおばさんを含め、三蔵は八戒に旅をしていることを説明させた。





「― へぇ、じゃあアンタ達は西へ向かってるのかい。

 この村はいい所だよ。しばらくいるといい」


「少々訳ありでな。先を急いでいる」


「いいさ、若いうちは旅をするモンだ。

 それにね、アタシはアンタ達に感謝してるのさ」


「感謝?」




八戒は何かモヤモヤした気分でそう尋ねる。




「ああ・・・何せ旬麗の笑顔なんて久しぶりに見れたからね」


「・・・・え?」


「何それマジで?」


「・・・・男性関係・・・ですか・・?」



がそう言うと、おばさんはため息をついた。

旬麗をそれほどまでに大事に思っている、そんな気持ちが感じ取れるため息だった。




「旬麗にはねぇ、そりゃあ仲の良い恋人がいたんだよ。

 だけど彼は・・・妖怪だったんだ・・・



 人間と妖怪・・・

 異種間の交わりが禁忌とされていることくらいアタシらだって知ってたさ

 だけど2人とも本当に働き者のいい子達でね

 村人達は誰もが2人を祝福していたよ



 ・・・だけどそれも1年以上前の話さ

 アンタ達も知ってるだろう?

 世界中の妖怪達が急に凶暴化したことを・・・・


 1年前・・・・・

 村の妖怪達全てに異変がおとずれた

 彼もその中の1人だった

 完全に自我をなくす前に・・・・・って

 旬麗をふりきって飛び出してっちまったのさ

 そしてそれっきり帰ってこなかった

 旬麗はその日から笑顔をなくしたんだ・・・」



「・・・じゃあこの服は、その方の物なんですね」


「・・・きれいに洗濯してあるだろ?

 あの子は・・・旬麗は、恋人がいつでも帰ってこられる様に

 寂しさを紛らわす様に、いつもああやって洗濯しているのさ

 その大事な服をあんた達に貸したのも『笑ったお詫び』じゃあなくて

 笑顔を与えてくれたお礼なんだろうよ

 アタシ達はね、慈燕が生きていることを願うばかりだよ・・・」









「『ジエン』・・・!?

 その男、『ジエン』ってのか!?」



いつもは冷静なはずの悟浄が、焦ったように声を荒げている。






なんだか、変な感じがした。

怖いような、恐いような。



悟浄が焦っていることよりも、旬麗の過去を聞いたことでの記憶もまた以前より鮮明に思い出されて。




「も・・・・とみ・・さん・・・」















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2巻入りました〜
すごく久しぶりに更新しました;
ヒロインちゃんの話にするか原作と同じにするか・・・と考えた末こうなりました(笑
どっちにしろ両方取り入れちゃってます;
では、ここまで読んでいただけて本当に感謝に堪えません! ありがとうございました!

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