第2試合

















「妖怪に侵入されました!!」






妖怪が襲ってくることなど今までもこの先も皆無であろうと思っていたためか、御坊は必要以上に焦っている。

その声を聞いたそのほかの僧たちも慌てふためいてあからさまに平常心ではなかった。





「何!?」


「『三蔵どもを出せ』とわめきながら・・・寺院内の者を次々と手に掛けております・・・!!」





穏やかではない会話。

それを至近距離で聞きながらはほんの少し前に固めた決意を底から頂上まで引き揚げた。

それは永らく封印されている間に失いかけていた強い気持ちだった。







「三蔵」


「・・・ああ」


「いこっか。みんなを守りに」






そして2人はこれでもかと言うほどに満ちる妖気の根源を探り、部屋を出たのだった―











































「菩薩様」




一方ここは天上界にある菩薩様のお部屋。

を桃源郷へ送り込んだ張本人が、丁度今名前を呼ばれた。




「何故あの5人に地上の道を行かせたのですか? 天竺までならば空の航路が最も手っ取り早いはず」




観世音菩薩様の部下である二郎神は問いかけたが、彼の上司は新聞に目が向いている。

ポニーテールにしても腰まである長い髪をじっと見ているとようやく口が開く。



「ただ天竺に行くだけならな」



新聞から目をそらすことなく答え、また続ける。



「真の目的を遂行するためには今のあ奴らでは連帯感もきわめて乏しい。

 その為の試練と思えば多少苦難の旅もよかろう」



それを聞いた二郎神はほっと胸を撫で下ろした。



「流石、そこまでお考えでしたか」


「―なんてな・・・その方が面白そうだからに決まってんじゃん」







「―かっ・・・、観世音菩薩・・・・・」



そこにはあまりのショックに顔をひきつらせた二郎神がいた。





































「ねぇ三蔵」


「あ?」


「私にも戦わせてね。私もみんなを守りたい」


「ふん、誰も他人に守ってもらおうなんざ思っちゃいねェよ。好きにしろ」


「ありがとね!」




広間のある大きな扉。

そこから発せられる大量の妖気にいち早く気づいた2人は全力で走った。

扉の奥からは、御坊の泣き叫ぶ声と轟音が響いて聞こえた。



「流撃破っ!!」



妙な掛け声とともにが扉に向かって叫ぶと、彼女の右手には青紫色をした気がまとわっていた。

右手を扉にかざすとその場所からは水がものすごい勢いで噴射され、扉をいとも簡単に壊してしまった。

大きな扉が壊れた轟音のため、中にいた人間は何が起こったのかとこちらを向いた。



「倒れ方が無様だ。40点減点」



敵が驚いている間に、三蔵は彼を殴り倒したようだった。

すると八戒がに向かって『計80点の減点ですね』と教えたので、には戦局が想像できた。



(圧倒的に私たちのほうが有利じゃない・・・?)



「ったく、なんでお前ってオイシイところ独り占めするワケ?

 こんな奴俺一人でも余裕だったのによォ。チャンともずっと一緒にいたんだろ?」



三蔵の方に肘をかけて悟浄が言った。

そのついでににも『ね、♪』と上げ調子で話題を振った。

この時『こんな奴』呼ばわりをされた張本人は床に倒れ、やっと気がついたところだった。



「お前ごときの刺客をよこす様じゃ 俺たちはよほど見くびられてるらしいな。貴様らの主君”紅孩児”とやらに。

 牛魔王蘇生実験の目的はなんだ? その裏には何がある?」



三蔵は傷だらけの妖怪を見下ろし、そう言ったが、妖怪は不敵にも笑みをたたえた。



「・・・・・・へッ、

 あんた血なま臭ェな・・・今まで何人の血を浴びてきた?『三蔵』の名が聞いてあきれるぜ」



無神経な発言に、もつい声を上げてしまう。



「・・・・ちょっと・・!!」


、落ち着いてください」


「ダイジョーブ。 ウチの三蔵サマとお猿サマには血も涙も無いような神経備わってるから♪」


「なんだとッ!?」



普段どおりの雰囲気に戻りつつある4人とはまた別に、三蔵は戦っていた。



「20点減点・・・ゲームオーバーだ」


「バーカ・・・言われなくても死んでやるよ」



さっきまで和んでいた4人はその台詞に、何が起きるのか、と思いついた。

一番に叫んだのは八戒だった。



「よけて三蔵!!!」



八戒の声と同時に物凄い轟音が響き、煙が立ち込めた。

煙が晴れた時には、妖怪のバラバラになった遺体と三蔵しかいなかった。



「・・・・・・・そんな・・・」


「何 もしかして自爆ってヤツ!?」


「・・・マジで?」


「大丈夫かよ三蔵!?」


「ああ、たいしたことない」



やっとの思いで安堵するが、

はこぞって他のメンバーと同じ考えを持った。

自白する前に死を選ばせるような、そんな力を持っている紅孩児とは一体何者なのだろうか。



「あなた達は・・・何者なんですか!?」



急に聞こえた、泣きそうで震えている少年の声に、は身を硬くした。

振り向くと八戒が心配をして声をかけたが、反発されたようだった。

その理由に、つい先ほどまで男性陣の身の回りを世話していたという少年は、三蔵たちに落胆したように声を荒げて。



「今までにも沢山の血を浴びた・・・って こんな風に殺生を続けてきたのですか!?」


「あのなぁッ、仕方ねーだろ!? ヤらなきゃヤられちまうんだからさぁ!?」


「それが良いことだとは僕らだって思ってませんよ、でも・・・」


「良くないに決まってますよ! たとえ誰であろうと命を奪うという行為は御仏への冒涜です!!」



悟空と八戒の言葉すら耳に届かないくらいに興奮している。

今まで黙って聞いていた三蔵は、静かに口を開いた。



「―おい、お前それ本心で言ってんのか? これだけ身内が殺されてもそんなこと言えるのかよ」



三蔵の言葉には、はっきりと感じ取れる意思がこもっていた。



「そんなに『神』に近づきたかったら死んじまえ。

 死ねば誰だろうが『仏』になれるぞ、そこの坊主達みたいにな」



流石の少年も、この台詞に圧倒されたように床にへたり込む。

そのタイミングで悟浄も。



「―でもまあ・・・残念なことに。

 俺たちは生きてるんだなコレが」

























そんな当たり前だと思っていたことをさらっと言ってのける悟浄が、とても素敵だと思った。

『素敵』なんて言葉じゃ片付けたくないような場面だと思ったんだよ。

私にはそんな意思だって無いしこの4人と行動を一緒にしているだけだから理解できないこともたくさんある。

でもなんだか、4人の生き様っていうか人生が、とてもうらやましく思えた。

『責任放棄』

そんな言葉とは無縁な、自由な生き方がこの4人とならできる、

そう考えればとても。

これからが楽しみでしょうがなくて。

1分1秒が嬉しくてたまらないんだ。

だからもうちょっと、がんばってみるよ。

自分らしく、なれるかな。
























「・・・ここから北西へぬければ夕刻までには平地へ出ると思います。ジープなら町まですぐでしょう」



昨日の晩まではわがままな御坊。

でも今日の朝になると、やけにうやうやしく三蔵一行に声をかけるようになった。



「ご迷惑をお掛けしました」


「いえいえとんでもない!!

 今回のことで我々がいかに危機管理がなっていないか思い知らされました。

 死んでいった僧達の魂をムダにせぬ様にいたします」



そう、

三蔵一行は散々壊した建物を修理もせずに次の町へと旅立とうとしているのだった。



「皆様にもとんだご無礼を・・・」


「あ、気にしないでください、たまには浄化された生活も必要な方々ですから♪」


「汚れ物か、俺たちは」



御坊は気づいたようにあの少年に声をかけた。



「―葉?」


「三蔵様、全て片付きましたら又この寺に立ち寄っていただけますか?

 その時は私に、麻雀を教えてください」



決意したかのような声に感づいたのか、三蔵は久々に晴れ晴れとした顔で。



「・・・覚えておく」






「やめた方がイイよ、三蔵と悟浄は。 スッゲ性格ヒネたうちかたするから」


「おいエテ公。未だに役も覚えきれねェ猿に言われたかねェなぁ!!?」


「あははー」


「本当のコトじゃんかイカサマ河童!!」


「あーうるせー!」




そのまま八戒とは葉に笑顔つきの手を振り、3人を追いかけるべく後を追った。




「なんだか、呆気なかったですね」


「昨日の戦闘?」


「ええ。僕なんか防護壁作っただけでしたよ、あはは」


「私なんか扉を壊しちゃっただけですよ」


「「あはは」」


「・・・でも、あんまり呆気ないことをマイナスに考えるのもどうかですよねー。

 そう思えば良かったのかもしれませんね」


「うん」




そう話していると前からいつも以上に元気な悟空と悟浄が大声で2人を呼んだ。

それに応えるように2人は走った。















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あとがき

私の神様です(何 そして1巻が終了しました!次からは2巻を片手に執筆です♪
この回は何故かすごく時間が掛かりました・・・なんてったってヒロインちゃんの出番少ないですもん!!
最初と最後にちょこちょこっと出たくらいでしょうか?しかも少し短いですしね;
今回は泉水さん(CV:保志総一朗さん)の「流撃破」使用ですねぇ。撃破したかったんです。壁を。
では、ここまで読んでいただけて本当に感謝に堪えません! ありがとうございました!

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