権力






















前回とはうって変わってここは山奥。

しかも岩場の真っ只中ともあってジープの通行は無理でしかなく、5人分の荷物を歩いて運ぶ羽目になっていた。

三蔵一行はサバイバル制。

要するに勝った者が楽をし、負けた者が苦を味わうのだ。





「じゃーんけーんぽんッ!」


「あーいこーでしょッ!」


「しょッ」


「しょッ」


「しょッ」




一向に止まらないあいこはハッキリ言ってすごいと思う。

私は荷物は自分で持ってるから戦力外だけど一回前のじゃんけんの時もあいこが14回続いてたから。

今までの人生経験の中でもこんなの初めてだし、かなり新鮮だな。




「あ゛〜ッ!!!!」




急に叫びだしたのは悟空。

が4人を見て考察していたうちに悟空が負けたらしい。




「なんで皆グーなんか出すんだよッ!!」


「仕方ないじゃないですか、僕たち偶然同じの出しただけですから」


「でも悟浄はぜってーイカサマしてるって!!今まで一度も負けてないじゃんか!!」


「それは僕だって三蔵だって同じじゃないですか」


「でもさぁッ!」


「あーあー、サルは元気がよろしいこって」


「なんだとッ!?もう一度言ってみろよ!」


「うるせぇッ!!!!殺すぞ!」




三蔵一行に加わってから早1週間。

いろんなことがあったがまさかこんな岩場では妖怪も襲ってくることは無いだろう。

少し甘い考えだったかもしれないが、今いる場所はそれを証明できると思うくらいに険しい場所だ。

危険な場所であってもいつもと変わらない4人を見ていて安心できた。

そのとき、冷たい風がの頬をなでた。




「うわっ!」



その風は予想以上に強くて、足元が崩れそうになった。

急に手首に圧迫感を感じると思うと、ふらつくを悟浄はつかまえていた。



「大丈夫か?」


「う、うん。ありがとね」


「いや、しっかしすごい風だよな」


「チッ・・・タイムアップだ」


「そうですねェ・・・じゃあ一晩の宿をお借りしますか」


「悟空も疲れたみたいだしね」





満場一致で決まった方針により、一行は目の前に見える寺院に目を向ける。

八戒10人分くらいあろう大きな門へ向かって歩いた。

もちろん荷物持ちは悟空で。




門の前まで来ると、上から若い僧の声がした。

何か用か、と。





「我々は旅の者ですが、今夜だけでもこちらに泊めて頂けませんか?」


「なんだと?」





いつものように柔和な八戒の声とは裏腹に、その若い僧の口からは心無い声が響く。

もしもこの場に三蔵が居なかったら、全員野宿が決定となっていただろう。




「ここは神聖なる寺院である故、素性の知れぬ者を招き入れるわけにはいかん!

 ましてや女人など寺院に来ることさえも許されぬぞ、貴様達はそんな常識も持っていないのか?」





「クソッ、だから俺は坊主ってヤツが大嫌いなんだよ!!」


「へー初耳」


「困りましたねェ」


「やっぱ私だけ野宿した方がいいかな?」


「そんなことねェって!一緒にメシ食べよーぜ!な?

 腹減ったってば三蔵っっ!!」






全くいつもと同じような会話を何気なくしていた悟空がぽつりとこぼした言葉。

『三蔵』





「『三蔵』だとっ!?」




先ほどまでとはうってかわって表情を焦らせる坊主はそういえば、と三蔵法師という存在を思い出す。



(そういえば・・・あの男のいでたちは生前の光明三蔵法師と同じ

 双肩にかけられた”天地開元経文”…そして額の深紅の印は神の座に近き者の証・・・)


「・・・まさか”玄奘三蔵法師”・・・?」


そして坊主は最近耳にした噂をふと記憶の中からたぐりよせる。


”玄奘三蔵法師と龍神の神子が共を引き連れて西へ向かっている”


ならば三蔵法師と共に居るあの女性は龍神の神子ではないか?






その坊主の放った『玄奘三蔵法師』という単語は寺院中に響いて。

彼らはさっそく泊まっていってくださいといわんばかりに門をあっさり開けてくれた。





「しっ・・・失礼致しました!! 今すぐ門を御開け致しますッ!!」





三蔵一行はいきなりの急変振りにポカンと門が開くのを見ていたが、門が開いたのでとりあえず中に進む。

丁度門に入りかかろうとした時、は後ろから付いて来た坊主に声を掛けられた。





「失礼、少しお尋ねしたいことが」


「あ、すみません。女人禁制なのに」


「いえ・・・あなたは・・・噂に聞く真の龍神の神子様でいらっしゃいますか?」





噂。

それは『三蔵法師と龍神の神子が以下略〜』というもので。

教養ある僧侶ならば常識の範囲に存在する『龍神の神子』についての伝説を、事実だと現在に示す噂でもあった。

そして『あなたが龍神の神子様ですか?』という問いに対する答えも、三蔵の正体がバレる度に答えていたのだ。





「はい。私が龍神の神子ですが・・・何かで証明したほうがいいですか?」


「い、いえっ、滅相もございません!! ど、どうぞ中へお入りくださいッ!」


「ありがとうございます」




人間と同等の風格など持ち合わせていないかのような神々しい微笑み。

ただそれだけでが龍神の神子であることは証明される。

反論することすらためらわれる程の気迫を発していたのだろうか、その光景を見ていた坊主はほとんどが頬を赤らめて俯いてしまった。





「おーいーッ! 早く来いよーッ!」


「あ、待って!」




だが三蔵一行の仲間として、4人と話すときだけはその気迫は薄れているようで。

4人の前では普通の女性として振舞うことすら日常だった。







































「これはまた広いですねェ」


「すごいね・・・天井がこんなに高いなんて吹き抜けぐらいでしか見たこと無いよ」






それは事実で、

この寺院は古いわりにはかなり豪華な作りになっていた。

の言うように天井は悟空が頑張って跳躍して届くくらいの高さがあり、廊下の幅は悟浄が4人寝転んでも入るくらいだ。

だがそれよりもっとすごいのは、これだけ広い寺院いっぱいに線香の香りが充満していることぐらいだろうか。

悟空はあからさまに嫌そうな顔をしていた。






「こちらでございます」





門番をしていた坊主とはまた違う坊主が三蔵たちを広間へと導いていた。

長く広い廊下を半分までくるとその広間への扉があった。

この扉もまた必要以上に多きい気もするのだが…、ともかく5人はこの寺院のトップである僧侶に会うために扉を開いた。






「これはこれは三蔵法師殿。このような古寺によくぞお越し下さいました」


「歓迎いたみいる」




三蔵が心にも無い台詞を吐いていると、他の4人は寺院の歓迎ぶりにぎょっとした。

寺院の長は70過ぎくらいの優しそうな僧侶であった。

少し長めに髭を生やして見えているのかと思うくらいに目を細めて三蔵一行を見ている人だった。

その両脇には2人の僧侶が控えており、その前には花道のように坊主が並んでいた。




「おい、三蔵ってそんなにお偉い様だったワケ?」



ふと気に留めて悟浄が聞いた。

それに対し八戒が答えを口にする。



「というより三蔵の称号の力ですね・・・この世界には『天地開元』という五つの経典があるそうで、

 その経典それぞれの守り人に与えられるのが『三蔵』の名だそうです。

 仏教徒の間では最高僧としてあがめられるわけですね」



「なんであんな神も仏もない様な生臭ボーズが『三蔵』なんだ?」


「そこまではちょっと・・・」





影でなにやら悟浄が酷いことを言っていたが、三蔵はそんなことには無関心に長と話す。

長は光明三蔵法師が十数年前この寺に立ち寄ったこと、玄奘三蔵が光明三蔵に似ていること等昔話を始めた。

あからさまに長くなりそうだと察知した三蔵は口を開いた。




「そんなことより、この石林を一日で越えるのは難儀ゆえ一夜の宿を借りたいのだが」


「ええ! それはもちろん喜んで!

 ただ・・・」


「何か?」


「ここは神聖なる寺院内でして、本来ならば部外者をお通しする訳には・・・そちらの御三方は仏道に帰依する方の様にはとても・・・」






その言葉は、仏道に帰依しているわけではないが歓迎されているにも腹立たしい台詞だった。

だが更に悟浄にとっては喧嘩を売っている文句のように聞こえたらしい。






「坊主は良くても一般人は入れられねーってか? 高級レストランかよここは!!」


「まあまあ」


「俺はかまわんが」


「うわー言うと思ったー」


「三蔵もちょっと酷いんじゃない? 私はこの3人も一緒じゃないとこの寺院に泊まる気はありません」






普通の言葉の延長で言った台詞だったが、案外僧侶達には大ダメージだったらしい。





「いえ、神子様はどうぞこの寺院にお泊まりくださいませ! 御三方も是非…共にどうぞ。

 では今回は三蔵様と神子様に免じてそちらの方々にも最高級のおもてなしを御用意致します」




こうして一応、今夜の宿を見つけたのだった。

後味の悪い決め方をしたが、寺院の用意した夕食の後味は良かったらしいが、悟空には物足りなかったようだ。


部屋は女人禁制のため男女を同じ部屋に泊めるなど言語道断だったらしく、だけ別の部屋に泊まることになった。





「独りなんて寂しいだろ? 寂しくなったらいつでも俺のところにいらっしゃい、


「駄目ですよ。悟浄のトコに行くくらいなら僕がを慰めに行きますから動かないで下さいね」


「はい?」


「そうだ、俺たちポーカーやるから一緒にやらね?」


「駄目ですよ悟空、僕たちは暇ですけどは上の人に呼ばれてて時間なんてそんなに無いんですから」


「えー? マジ?」


「まぁ呼ばれてるけどね。八戒よく知ってたね?」


「ええ。に手は出すなと言っておくついでに聞き出したんですよv」


「・・・そうっすか・・・八戒はホント心強いよ、ありがとね」







ちょっとだけ他の意味を込めて感謝したのだが、八戒はその意味すら解釈した上でにっこりと笑った。

味方にしておけばこの人以上に心強い人は居ないと、は改めてそう思った。






「さて、じゃあ私行って来るね」


「ええ、いってらっしゃい」


「気をつけてなッ」





三蔵一行はこんな風に気遣ってくれた。

でもそんな仲間が、には昔にも居た。

八葉と呼ばれる仲間で、それ以上に想っていたこともあった。

だからこんな待遇は嬉しいようで、少しだけ残酷でもあったのだ、にとってのみ。





「相変わらず広いなぁ・・・」




何度見ても広さは変わるはずが無いのに、独りで来るとこんなにも広いとは。

最初はさしてなんとも思わなかった扉が、やけに大きく見えた。

その扉に手をかけようとしたら、勝手に開いた。



(自動?)



この時代にありえない想像をしているうちに扉は開ききって、中からまだ幼い少年が出てきた。

装束の丈は丁度ひざ辺りだろうか、声変わりもしていない可愛らしい声でを『神子様』と呼ぶ。




「神子様! こちらの長が神子様にお話があると仰っておりますのでご案内致しました! では私はこれで」


「あ・・・それはありがとうございます」


「いいえ、お気遣いありがとうございます!」




そう言ったっきりその少年は部屋から出て行った。

少年の影が消えるまで見送った後、は広間へと足を進める。

中にはやっぱり長が中央を陣取っていた。だが来た時よりも坊主の人数は減っているようだった。





「あの、お話とは何でしょうか?」


「恐れながら神子様、もう少しお待ちください。三蔵様もお呼びしましたので一緒に聞いて頂きたく存じます」




三蔵も一緒に。

そう聞くだけで少しだがの心は暖かくなったような気がしたのだった。




「分かりました。お待ちしますね」


「恐れ入ります」







その10分後。

三蔵はまだ来ていなかった。




(遅いな・・・何かあったのかな。いや、そんなことあったらきっと八戒が微笑みながら怒ってるだろうし・・・)




ここで遅いことに腹を立てない辺りが『龍神の神子らしさ』だと以前を守る男たちは言った。

ふとそんなことを思い出しては微笑んだが、それとほぼ同時に広間の扉が開いた。











「で、なんですか話というのは」






いきなり本題に話を持っていこうとする口調で三蔵は入ってきた。

しかもあからさまに超不機嫌そうだったのでは声をかけることをためらった。





「・・・実は是非とも三蔵様に、この寺院への長期滞在を願いたく存じまして・・・」





用件の内容に自分の肩書きを見出せなかったが頭上に『?』を浮かべる。

すると三蔵は更に不機嫌そうな顔をして話し出した。





「私は先を急いでいるのだが」


「一ヶ月・・・いえ一週間でも構いません!!」


(ふふっ・・・)





一人称が普段の『俺』から『私』に変わっていることが新鮮で、は思わず微笑んでしまう。




テメェ・・・)




その行動に唯一気づいた三蔵は、凡人でも気づくような視線でを睨んでいたそうな。

それに全く気づかないもこの場合は強者(つわもの)だった。





「三蔵様がこの寺院にお立ち寄られたのも全て御仏のお導き。そうに違いありません!

 是非説法等にあやかりたいと皆も申しておりまして・・・」



「ごめんなさい。私たちはそういうことの為に使う時間、ないの」


「フッ・・・あんた達ソレ、光明三蔵にも同じこと頼んだろ」


「ええ・・・それは丁重にお断りされましたが」


「本当に甘い人だなあのお師匠様は。失礼する」





少し機嫌が良くなったのか、ついに独り言まで始めた三蔵を見るに見かねたがフォローをしようとしたが。

その前に長が2人を呼びとめようとする。




「三蔵様・・・神子様まで!?」




三蔵が振り返ったためにできた少しの沈黙の後、彼はゆっくりと低く響く声で口を開けた。





「光明三蔵法師があえて言わなかったことを俺が言ってやろうか?

 いいトシこいてわがままぬかしてんじゃねーよ」






三蔵法師という肩書きにあるまじき暴言を吐いた彼の言い分はでさえももっともだと思った。

だが当然のことながら僧侶及び坊主たちはうろたえるばかりで。






「言っちゃったね、三蔵?」


「お前もそう思ってたんだろーが」


「そうだけどこんなところでそんなこと言わないでよ、失礼なんだからさ」


「今更そんなこと考える必要ねぇよ、部屋に戻るぞ」


「うん・・・」






後ろめたいように、はその場に居る僧をを見ながら口パクで『ごめんね』と言う。

そんなことは後姿からは認識できない為、三蔵はの細く繊細な腕をつかんで歩き出す。




「行くぞ」


「えっ? でも何かモメてるみたいなんだけど・・・」


「知るか」














バンッ!



『大変でございます!!!』




あの大きな扉を勢いよく音が鳴るほど強く開いた僧は目の光を失ったように焦っていた。

息を切らせて三蔵との行く手を阻むとその場で叫んだ。












「妖怪に侵入されました!!」


「何!!?」





















「『三蔵どもを出せ』とわめきながら・・・寺院内の者を次々と手にかけております!!」











































『今度は私が皆を守るよ』




はそう言った思い出を過去から探り出した





































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あとがき

彼の神様です(何
ディズニーの曲を聴きながら深夜に作ったためかやや(いやかなり)話が単調でつまらないかもしれませぬ。すみません。
前回言った様に次は神子様も戦闘に参加してぜひ『雨縛気』を使用させてやりたいと思います♪
途中で「時間、ないの」と書いたのは少しエアリス(FF7)っぽいかなと思いついたからです(おい
では、ここまで読んでいただけて本当に感謝に堪えません! ありがとうございました!

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