初試合





















「悟浄!! 席替われよっ!」






小さな身体で精一杯居場所に不満を表している少年、悟空。

何故か今日だけは決めたはずの座席が変動していた。

簡潔に言うと悟浄と三蔵が入れ替わっただけなのだが、煙草を吸っている悟浄の煙が後ろへと舞い込んでいた。






「お前が前にいると煙たくてしょーがねーだろッ!?」






だが必死に口論に発展させようとする悟空に対し、悟浄は冷静に笑う。

しかも悟空を見下したような、からかっているような素振りで。






「ああ悪ィな、後ろにお子様乗ってんの忘れてたぜ」


「ンだとッ!!? がまた倒れるじゃんか!!」






その一言にのみ悟浄は反応を示した。






「げ・・・悪ィな。ごめんゴメン」


「いいけど・・・できればそろそろやめて欲しいなぁ・・・」






少しだけ元気が無くが言うと、悟浄はすぐに愛用煙草のハイライトを吸うのをやめた。

感謝の言葉を述べても悟空と悟浄の口論は全く止まる気配は無く。

いい加減に。

そうが言いかけた時三蔵がその台詞をさらっていく。






「・・・いい加減にしろよ貴様ら。なんなら降りて走るか?」


「あはは、まーまー。もうすぐ町が見えてくるハズです」






そう言う八戒の表情は柔らかい。






「久々に屋根のあるところで眠れそうですねェ」






その通りだった。

ここしばらく三蔵一行と加わったメンツは野宿三昧だったのだ。

東の村で調達してきた荷物に加えて人数も1人追加したのだから、場所を確保するにも大変だ。

毎日のようには悟浄と三蔵の副流煙から逃げるように大人白龍とともに就寝するのだった。

そんな日がしばらく続き、一行もさすがに生活に飽きてきた頃。

近くに町があるということが分かり、5人の士気は一気に上がるのだった。




そして到着した茄陳の町。






「このアマ!! あやまれっつってんだよ!!」


「嫌よっ! ワザとぶつかって来たクセにッ」


「その荷物置いてきゃ許してやるって。可愛い顔に傷残したくないだろ?」






そこではあからさまに賊と呼ぶに等しい人間が一人の少女に絡んでいた。

もちろんその少女は迷惑だとしか感じていない。

三蔵一行は満場一致でそう思考を共有した。






「いい加減に・・・ッ」






少女がそれだけ喋った時には、賊はとある足によって地面に叩きつけられていた。

その足を持っているのは真紅の髪と目を持つ悟浄だった。

それに続いて悟空も加勢し始める。






「ンだてめェら!? 邪魔しようってンなら・・・・・・」






そう言ったときにはもう悟空は賊の顔面を殴った後だった。






「ビンゴ♪」


「悟空!悟浄!あんまり派手に動かないでね〜!」






遠くでが2人に注意を呼びかける。

むしろこちらのジープの方が悟空よりも目立っているということは気にしないでおこう。

それはもう既に三蔵に咎められた後だったのだから。

そして当の本人と悟空は無意味な会話をしていた。





「ジープ・・・?」





先ほどまで賊に襲われていた少女は、目の前にある鉄の乗り物に驚く。

そしてあからさまに怪しい三蔵達の正体を恐れた目で悟空が倒した賊を見る。






「ほい」






ふと、落ちていたりんごを悟空が少女に渡す。

おまけにいつもの明るい笑顔で。






「俺ら旅してンだ、メシのうまい宿屋教えてよ」


「駐車場完備だと嬉しいんですが」






後ろでボソッと八戒が言った。

すると少女は自分の宿屋に是非来て欲しいと放心状態の顔で言った。




その宿屋の一角にあるテーブルで、2人は激戦を繰り広げていた。





「るせーな、イジ汚ねーぞ猿!

 あっ、ソレ俺が取っといた酢豚じゃねーかよ!?かえせ!」


「いーじゃん!」


「ンだとコラチビ猿!!」


「静かに・・・「静かに食え静かに!!!」


「すみませーん、お茶おかわりお願いします」


「あ、そだ。紅茶ってありますかー?」





三蔵一行に加わってから約1ヶ月経っている為、食事の際の言動等にも馴れたが紅茶を頼む。

チラッと横目で先ほどまで怯えていた少女を見ると、全く警戒しない態度で微笑んでいた。

こんな感じで三蔵一行は夕食を取っている。

その様子を見て少女は微笑ましく微笑む。


その時少女の後ろから優しい顔立ちの男性が姿を現す。






「お客さん達!!朋茗を助けてくれた礼だ。どんどん食ってくれ」


「お父さん」





2人の言動から見て、この方達は親子なのだろう。

そんなことを思っている間に八戒が。




「恩にきます♥」


「いやぁなんの・・・ところでお客さん達、東から来たんだってネ」




『お父さん』と呼ばれたその男性は八戒にお茶を、に紅茶を出しながらそう言った。




「ああ・・・そうだが」


「へぇ・・・珍しいなぁ、東の砂漠は物騒であんまり人間は通らないのに。

 皆さんよく無事でしたねーやっぱり強いんだ」




あからさまに自分達のことだと自覚している4人と、食事に夢中な1人が少しだけ身を硬くした。

更に続いて朋茗は東の砂漠について語りだした。

すごく凶暴な5人組の妖怪が出て、彼等の通った後には屍の山ができる、と。


なんとも思っておらず、人事だと思っている悟空は純粋に答える。





「へー、でもそれってまるで俺等のことみた・・・




ガコッ!!


変な音がして時にはもうまともな会話ができる状態ではなかった。

悟浄が皿の上に悟空の顔を押し付けていたから。





「ああスマン。今お前の頭にハエがいたんだ」


「惜しーな逃げられたか」


「気にしないでくださいね♥」


「あははっ、ハエ・・・っあははっ・・・悟浄サイコー!」




おかしい、と腹を抱えて笑い出すを横目に三蔵は真面目な話を始めた。




「ところで、この界隈での妖怪の動向はどうなってるんだ?」




冷めた表情で朋茗の父は語りだした。

優しい表情から一転して場の雰囲気は下がる。




「・・・どうもこうもないがね、ちょっと前まではこの町にも妖怪が普通に生活してたさ。

 だがある日を境にみんな何処かへ消えちまった・・・町の人間を10人程食い散らかしてな・・・!!

 俺達人間には何が起きたんだかさっぱりさ」




この町も同じ。

この前三仏神が言ってたように、妖怪が暴走しだしたってのはもう桃源郷全体の問題・・・。

元を断たないと意味が無いんだね。




と三蔵が深刻そうに考え事をしているうちに時間は過ぎて、一行は既に自室へと戻った。

とにもかくにもこの町は夜で。

『礼』といって部屋を多めに取ってくれたお陰で、今日もは1つの部屋を占領できたのだ。

時間も遅いということで、は自室に戻って久しいシャワーを浴びる。



無機質な音が響く。

神子という使命は、どこまで続いているのだろうか。

目の前の敵を倒すだけでは終わらない。

といっても、今までの戦闘では悟空やら八戒やらに守られているだけで戦ってはいない。





「頼るだけの神子なら、いない方がマシだよ・・・っ・・・」




無機質な音に掻き消されて泣き声はまともに空気を伝わらないの。

そんな時だからこそ、自分を強く持つべき。

なのに私は・・・なにをしているんだろう。

泣くことで自分を守ろうだなんて、古いよね・・・。




ようやく決心が付いたのか、着替えてシャワールームを出た。
























一方ここは八戒の部屋。




「三蔵一行ぉおおおおッ!」




いい加減寝ようとしていた八戒に、妖怪が思いっきり小刀を突きつける。

だけどその狙った先には何も無くて。




「何やってるんですか?」


「何!?貴様・・・紅孩児様の命だ・・・殺す!」


「静かにしてください、もう夜遅いんですから」




そう静かに言った時には妖怪は床に倒れていた。




「寝込みを襲うなんて、不躾な方ですねェ」




手に付いたほこりをパンパンと払いながら余裕の言動で言う。

その時八戒の部屋のドアが勢い良く開いた。




「おい、いるか八戒!?」


「悟浄」


「・・・ああ、やっぱお前ン所にも来たか・・・。なぁこいつ等が言ってる『紅孩児』ってのは一体何者なんだ?」


「・・・ええ、確か牛魔王と正妻・羅刹女の一人息子だったと思います。

 500年前、牛魔王が討伐された際、紅孩児も西域・吠登城に封印されたはず・・・・・・

 彼の封印を解いた者が今回の事件に関わっている可能性は高いですね・・・」



八戒が身支度をしながら答える。

それに対し、悟浄は愛用煙草であるハイライトを吸いながら答えた。



「ま、つまり『とにかく西へ行けや』ってこったろ?」


「吸い殻その辺に捨てないでくださいね」


「へいへい」




ドン!


床が揺れるような大きな音がして2人は他のメンバーをようやく気遣う。




「そうだ、他の奴等は?」


「三蔵は離れの部屋です!悟空はこの隣りの・・・」


「何〜?もう朝メシ〜?」


「・・・いえ、残念ながら」



呆れたような八戒の声に対し、今度は緊迫した悟浄の声が重なる。




は!?」


は…も離れの部屋にいるはずです!」


































ようやく決心が付いたのか、着替えてシャワールームを出る。

すると



ガシャーン!


ガラスの割れる音がして、の部屋には男の妖怪がいた。





「テメェが龍神の神子って女か・・・噂通り美人ってか?へへっ」




下品な笑みをたたえると白龍と共にいるに襲い掛かる。

だがは平常心を保って身を案じるかのような目でその妖怪を見上げた。




「かわいそうに・・・なんで人間を殺したがるの・・・?」


「紅孩児様の命令だ!」


「紅孩児・・・様・・・?うわっ!?」




およそ場違いな体勢で考え事をすると、は軽々しく妖怪に押し倒される。

の2倍、下手をしたら3倍は体重が重いと考えられる妖怪なのだから、当たり前のことなのかもしれない。





「へぇ・・・結構呆気ないんだな、神子っていうくらいだからもうちょっと抵抗するかと思ったんだが」


「まさか・・・可哀想だなって・・・思って。ごめんなさい・・・」


「目の前に自分を襲おうっていう敵がいるってのに無抵抗か?面白みがねェな」


「・・・抵抗した方がいいの?・・・そうだよね、ごめんね、我慢してくれるかな」





またもや場違いな言葉を発すると、はイメージを膨らませる。

風のイメージ。

木気と土気が協調して大いなる風を生み出す。





「ごめんなさい」




が謝ると同時に、部屋の中には強風が荒れ狂っていた。




「風破斬・・・受け売りだけどね」


「こ、こんな・・・風っ!?」




妖怪は壁に叩きつけられてまともに動けないでいる。

その妖怪の顎をつかんで優しく語りかける。




「ごめんね」




それだけ言うと、は部屋を出る。

私のところに刺客が来たんだから、きっとみんなの所にも来てるだろう、と。

そう思ったから。

離れと本館をつなぐ冷たい廊下を歩きながらみんながいる場所を探す。


きっと適度に広い場所で。

まだ戻ってこないということは人質を取られたか何かで動けなくて。

長引いているんだろう、と。

そう思って。





「あ・・・」




ふと見つけた大きい扉。

『入れ』とでも言うようにたたずむその扉を、疑いも無しには開く。





「魔戒天浄!」




いきなり目に焼き付けられた大技。

目の前には魔天経文を開いている三蔵の姿と、大きな蜘蛛の頭に如意棒を突きつけている悟空。

それを横で見守る悟浄と朋茗とその父を守っている八戒。










終わっちゃった・・・?



また・・・何もできなかった



また・・・頼ってただけ・・・











「あっ、じゃん!」


「大丈夫だったか?」


「無事で何よりです」


「・・・行くぞ」








4人の優しい言葉は痛いくらい嬉しいけれど。

つい自虐的に考えてしまうもので。






「・・・ごめんなさい・・・・・・」





全員が頭の上に『?』を浮かべている。

だがそんなことは気にも留めず、朝は来るのだった。








































「もう行くのかね」


「ええ。長居するわけにもいきませんし」


「迷惑かけちまったな、親父さん」


「大丈夫さ、さして損害もひどくはないしな」






「お弁当、作ったんです・・・皆さんで・・・」


「おう、さんきゅ!!」








微笑んで返してくれる朋茗の父は好きだった。

俯きながら弁当を悟空に渡す朋茗も好きだった。

笑顔でそれを受け取る悟空も、一歩退いて見守っている3人も。

ジープである白龍も。


大好きだけど、悔しくて。







「だからそれは俺のロールキャべツだっての!」


「お前だって俺の肉ばっかり食いやがってよ!」


「だっておかかむすびばっかり食ってるんだもん!」


「こンの・・・猿猿猿!!」


「河童河童河童!!」




「あ、もどうです?このから揚げおいしいですよ?」


「・・・・・・・・・」


?」


「あっ、うん、貰う!ありがと!」











「・・・・・・・・・・・・、次の戦闘に備えて、今は休んどきましょうか」









まさかこんな言葉がもらえるとは思ってなかったけど。

欲しい言葉をこんなにすぐにもらえると嬉しい。






「うん!」














今度は私が、みんなを守るよ。















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あとがき

ファーストゲームです。そして無力な自分を悔やむ神子様。
ほとんどキャラと絡んでいないのはごめんなさい、力不足でございます。話の展開的に絡むのはちょっと・・・難しかったです;
ちなみに風破斬って遙かの天の青龍(CV:三木眞一郎さん)の必殺技にございます。八葉の技使う神子様・・・強い!!是非次は雨縛気を!
神子様が謝りまくってるのはFF7ダージュオブケルベロスの影響です。
では、ここまで読んでいただけて本当に感謝に堪えません! ありがとうございました!

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