三仏神






















「ほら、着きましたよ」






八戒が困るような声でを起こした。

そしては案の定目を覚ます。





「あ・・・あっ!! ごめん、おはよう!!」




事態と状況を一瞬で察知して謝罪の言葉を述べる。

そんなとき目の前に見えたのはひと際目立つ建物。

斜陽殿と呼ばれる建物だった。





(ここが・・・長安か・・・平安京が真似た・・・)


「ん? どした、。なんか考え込んじゃって」


「ううん、でもさ、悟浄は日本っていう国知ってる?」


「日本? 知らねェな。ごめんな」


「そっか、ありがと」





軽く礼を言いつつ5人と1匹は斜陽殿へと向かった。

さすがに都会とでも言うのだろうか、斜陽殿の周りで開かれている市や街並みはとても活気があった。

それも東の村・・・・・・・・・あの場所から見た景色とはずいぶんとまた印象が違った。

あの時の幻想的な美しさというより、大きな都市のような印象だった。

だがの脳裏に浮かぶのは平安京。

いや、『京』と呼ばれる世界の風景。






「ねぇ八戒、私この土地気に入ったかもしれない・・・」


「そうですか、それは良かったです」


「え? って長安みたいなトコ好きなの?」


「んー、っていうかこんな雰囲気が懐かしくて・・・ね」


「そっか、じゃあ旅が終わったらさ、俺と一緒に住もうぜ!」







それは、悟空の何気ない一言だった。

でもそんな言葉はに大きな不安を与えた。


旅が終わったら・・・?

自分はどうなるのだろうか。

その前に自分は旅で生き延びることができるのか。


急に怖くなった。

悟空と戦ってみた時も全くダメージを与えることもできずに。

その気持ちのまま、一行は斜陽殿へと進む。


















「神子・・・様・・・!?」


「神子様だ・・・」


「本物の神子様ではないか・・・!」





が斜陽殿に入ることは、顔パスで許可された。

の衣装と、左右の目の色が違うことで判断したのだろう。

清浄な雰囲気が、その証拠だ。





「これはこれは三蔵様に龍神の神子様、よくおいでになられました」


「今日は三仏神に用がある」


「そうですか、ではご案内致しましょう」


「ありがとうございます」





にっこりと微笑んで返してみる。

女人禁制となっている寺院の、ましてや斜陽殿の中に女性が入るなど異例の事態だ。

だがそれでも顔パスで通してくれた僧たちへの感謝も込めて。




「・・・・・・・・・ぁ・・・」



急に、僧侶が黙ってを見つめた。



「え? どうかしましたか? 大丈夫ですか?」


「い、いえ、なんでもございません。三仏神様はこちらになります」





少し調子の狂い気味な僧侶について、三仏神と面会できると言う場所まで行く。

だがここまで来るのにもいろいろと制約があり、悟空、悟浄、八戒は外で待つことになった。





ギィ、と重そうな音を立てて見るからに大きな扉を僧侶が4人掛かりで開ける。

も手伝おうと思ったが、遠慮されてしまった。




「ではどうぞ。三蔵様、神子様。」


「ありがとうございます」


「いちいち礼言ってんじゃねぇよ、キリがねぇんだ」



冷たい言い方の中にも気遣いの念を込めて聞こえる声だった。

そして2人は広い部屋へと足を運ぶ。

大画面のスクリーンのようなものがあるその部屋に、ふと三仏神と呼ばれる3人の神が映し出された。

無論3人の額には印があった。



「北方天帝使玄奘三蔵でございます」



三蔵の挨拶にあわせて、もとっさに自己紹介のようなことを始める。



「あ、です」



およそ場違いな心持ちのに、三仏神は優しく答える。



「あなたが龍神の神子ですね」


「はい」


「この世界の異変については?」


「存じております」


「では話が早いな」




3人で顔を見合わせて相槌をうったあと、話したのは真ん中にいた神。

すこし微笑んで話した。



「この先の旅ではそなたの力が必要となるだろう」


「・・・そうですか」


「案ずるな、そなたに力はある。怨霊を封印する力がな」


「ですが、それは八葉が怨霊を弱めてくれたお陰であって、私には戦う力がありません」


「いや、そなたはこの桃源郷に流れる五行の気を操ることができる」



の顔に、少しだけ笑顔が戻る。

目を輝かせて三仏神に問う。



「本当ですか!?」


「ああ、三蔵一行をよろしく頼むぞ」


「・・・はい・・・!」




五行の気というのは世界を流れる五つの気である。

木、水、火、金、土の五つの種類があり、世界のものはこの五つの気を組み合わせて作られている。

無論、人体でさえもそうだろうとは思っている。




「では、これにて失礼します」


「ありがとうございました」



三蔵とが一礼すると、三仏神はを我が子を見るような優しい目で見つめた。

それには気づかないが、2人は失礼がないように気をつけながら部屋を後にする。

誰もいなくなった部屋のモニターには、三仏神の世間話に花を咲かせる様子が映し出されていた。




一方、と三蔵は悟空達3人のいる庭へと向かった。

自分は何も言われなかった、とつまらなさそうな声で話す三蔵をたしなめながら。

とても異変が起こっているとは思えないような優しい会話だった。






「あ、帰ってきましたね」


「さんぞーッ、ッ! お帰り!」


「そんなにいちいち挨拶しなくても知ってるって」


「あははっ、悟浄って三蔵と同じこと言うんだね・・・!」


「あ゛? 俺がこいつと?」


「あ、ごめん」



急に優しい声でを慰め、また声のトーンを変えて話していた。



「いーのいーの。いーっつも悪いのはこの坊主サマだからよ」


「なんだと?」



静かな冷たい声で愛用である小銃を構える。

だがこんな光景に馴れてきたは、そんなことも楽しみの一環として受け止めるようになっていた。

そして何だか嬉しいからその場を仕切る筈の八戒を差し置いて話を進める。


は両手をパンっと叩いて。



「よし! じゃあこの場所すべきことも終えたし! 西に行こう? 三蔵」


「・・・ああ」



遠くで微笑む八戒と悟浄を見て悟空が頭上に『?』を浮かべている。

その後三蔵一行は斜陽殿の人たちに見送られることになった。

は片っ端の御坊に声を掛けて謝礼を述べていた。八戒も同じように。




「ふん・・・行くぞ」


「そうだね、じゃあ皆さん身体にお気をつけて」


「いえ、神子様もお気をつけて。三蔵様も」




こんなにいただろうか? と思うくらい大勢の御坊がそこにはいた。

5人でこっそり出発した東の村の時とはかなり違う豪勢な見送りだった。








「じゃあ・・・行って来ます!」






の発した言葉を全員が聞く。

三蔵と悟浄は頷いて、悟空と八戒はに笑顔を向けて行こうと言う。

八戒の肩に乗っていた白竜が、すこし微笑んだ気がした。




つい最近決めた指定された座席に座って、5人は旅を再び続けた。











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あとがき

ついに念願の三仏神サマご登場です!!
まぁ引越してきた時の近所挨拶みたいな話でした。一度モテまくるヒロインを書きたくて…
いけない人ですねぇ。御坊さんは女性というか色欲厳禁ですよ〜♪
では、ここまで読んでいただけて本当に感謝に堪えません! ありがとうございました!

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