座席指定






















今日は出発日和。

東から昇る太陽の日差しは温かく、心地良い風が5人を包んでいる。

の封印されていた村から一歩外へ出るとそこは砂漠。

そこは無菌の広間。

そこにジープと化した白竜がいて、周りには4人。

そして少し離れたところにがいた。







「それじゃ、行きましょうか」






そんな平凡な声を出しているのは八戒。

いい加減旅に出発しなければならないので、昨日から準備をして出掛けるところだ。







「そうだな」






三蔵一行は軽く相づちをうってジープに乗り込む。

その光景を、は唖然と見ていた。

そんなに気づいた悟浄が声を掛けてみる。







「どうした? 早く乗れよ」


「え? どこに座れば・・・いい?」







「「「「あ」」」」







小さく呟くようなその声を聞いて、4人は一瞬納得した。

そういえばの座る座席はどこにしよう、と。

決めていなかったことに少し後悔して。







「えっと、5人はさすがに大変かもしれませんねぇ」


「三蔵、どうやって決めるんだ?」


「俺に聞くんじゃねぇ」


「そりゃあやっぱり俺の隣だろ?」


「それじゃあが危ないだろッ!? は俺の隣ー!」


「三蔵は助手席から退く気なんてありませんよね?」


「当たり前だ」







一言一言を短く簡潔に話す三蔵に対して、3人は激論を繰り広げる。

はただ黙って長い指を口元に当てながら意見を聞いている。

そしてどんな結末になるのか想像するだけだ。







「だーかーら、俺の隣!」


(もし悟空の隣だったら・・・にぎやか過ぎて眠れそうに無いな・・・)


「猿の隣なんかじゃあがゆっくりできねぇじゃねぇか! ここはやっぱり俺の隣で♪」


(もし悟浄の隣だったら・・・なんか危なそう・・・かな・・・)







そんな風に考えて、一番の得策を模索する。

今のところ無しではあの座席が一番落ち着いているみたいだ。







「じゃあ、はどこに座りたいんですか?」


「え゛」


「もしも誰も座ってなかったら、って話です」


「え・・・助手席・・・」


「それは困りましたねぇ」


「あっ、い、いいよ!? 別にどこでもOKです!!」


「それは良かった! じゃあそこで」







『そこ』と八戒が指差したのはまさに悟空と悟浄の間の席。

席と言えるほど広くも無いその場所が、の指定席となった。

ともかくその指定席に座ってみる。







狭いよな? ちょっと詰めようか?」


「え? ありがと・・・」


「おい猿、勝手にに手ェ出すなよ」


「出さねぇよッ! っていうか悟浄には言われたくないっての!」


「ああ?」




「あのさ、2人とも」




「「何?」」





一応の声は2人に届くことを確認し、少し安堵する。




「いや・・・なんでもないの。 ごめんね」






確認を込めてそう言った。

そして5人で少し狭い鉄の乗り物に乗り込む。






















行き先は、斜陽殿。
















「じゃ、気を取り直して行きましょうか」







八戒の明るい声に続いてジープは走り出す。

どこまでも続く砂漠の果てに見える大きな建物を目指して。

方角は、西。









「わぁ〜、すごい! やっぱり砂漠って無菌なんだね!」


「ムキン? 何だソレ」


「そりゃあオメェ、筋肉が・・・」


「ああ、違いますよ。 細菌とか、菌が全く無いって意味ですよね? 


「うん」


「え? 普通そうなんじゃないの?」


「あー悟空知らなかったんだね。 あのね、普通はどこにでも菌はあるんだよ」


「嘘ッ!?」


「さすが脳ミソ胃袋猿だな、何もしらねぇの」


「何だと!? 悟浄だって知らないみたいな言い方してたじゃん!」


「俺は既に知った上であーゆーこと言ってんの」


「嘘つけッ!」


「マジだって」


「嘘!」


「マジ!」


「嘘嘘!」


「マジマジ!」


「嘘嘘嘘!」


「マジマジマジ!」




「テメェら・・・いい加減にしねぇとマジで殺すぞッ!!!」







三蔵の叫びがあって、2人の口論は収まった。

そのせいでやけに大人しい雰囲気の中、心地よく揺れるジープの上では仮眠を取っていた。







「あっ、寝ちゃってる・・・」


「おい八戒、こんな場合起こすべき?」


「今日も昼前までずっと寝てたんですけどねェ、きっと疲れてるんでしょう。休ませてあげてください」


「おう! じゃあ俺静かにしてる!」


「そうですね、そうしてあげてください」







そんな会話があったことなどつゆ知らず、は夢に浸っていた。

まさにその時ジープが右折した。

それは争奪戦開始の合図だった。






「わっ・・・」






左に傾いたの身体を悟空が抱きとめた。







・・・キレーだな・・・」






しかしそんなことを言ったが為に悟浄が反応する。

横目でを抱きとめている悟空を見つつ作戦を考案中だ。


ふと、ジープが今度は左折をした。






「あっ」


「よっしゃ」






今度は悟空のいる左から右へとの身体は傾いた。

ここぞとばかりに悟浄がを抱きとめた。

だが悟空の時とは違って今度はの肩にまで手を回してみせた。






「・・・・・・っ」






が寝ているこの状況では大げさに話すことも行動することもはばかられて。

悟空はただ端から見たらと悟浄が寄り添うようなその構図を、横目でちらちらと見ていた。




そして、

もう目前にせまる斜陽殿を見た悟空は、いち早くを起こそうとした。

だがそんな役目は八戒の十八番で。





、着きましたよ」


「ん・・・?」


ッ、おはよう!」


「おは・・・よ・・・ぅ・・・」




虚ろな返事を返したものの、最後の1文字を言い終わった時にはもう再び眠りに落ちた後で。

少し後に三蔵が放った銃声によって覚醒するまで、しばらく全員立ち往生させられた。














「皆、本当にごめんなさい」
















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あとがき

次回から旅とか言ってましたが…旅でしょうか…。
旅する前に最初に突っかかる問題が座席決めだと思いまして、この話を書いてみました。
運転手が八戒、助手席が三蔵、そして悟浄と悟空に挟まれてヒロインっていうのは柚椰の願望でもあります(ぇ
では、ここまで読んでいただけて本当に感謝に堪えません! ありがとうございました!

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