旅への支度






















「おそようございます、













時は昼過ぎ。

春らしい少し暖かいような日差しと、爽やかな涼しい風が心地いい。

そんな環境と、どこからか発せられた優しい声にの瞼は開けられた。






「ん・・・?」


「お目覚めですか?」


「わ・・・・・・わ、わわわわっ!? 何してるの!?」






が目を覚ますと、目の前には八戒の顔が至近距離まであった。

19歳のからしてみればそれはかなり刺激的なことで。

ましてやいるのは八戒だから。

平常心なんて保っていられるはずも無く、動揺してしまう。







「何って、起こしに来たんですよ」


「私を?」


「ええ、しか寝てる人いませんしね」


「え・・・? 今何時なの・・・?」


「2時ですが」






『2時』

その桁外れな時間に、はただ申し訳なく頭を垂れる。






「あ・・・それはごめんなさい。三蔵とかきっと怒ってるよね」


「大丈夫ですよ、三蔵だってさっき起きたばかりですから。

 ということで、今日は明日以降の旅の準備しますからも付いてきて下さい」


「買い物・・・ってことだよね・・・もちろん!!」





こちらの世界に来てまだ3日。

だけど久しぶりな感覚だ。

この世界でももちろん買い物はできるが、食事しかしたことも無かったのだから。

そうと聞いたは八戒を部屋から一旦追い出し、服を着替えて下の階へと向かった。






「みんなおはよう!」


「おはよッ!〜ッ!」


「遅い・・・」


「ヒロインは遅れて登場ってか? それはヒーローか」


「ふん、貴様のヒーローは遅すぎて役にも立たんな」






必要以上に険悪な三蔵と悟浄を横目で見ながら八戒は微笑んでいた。

悟空は珍しく大人しくしていた。






「あれ? なんか悟空元気無いね・・・大丈夫?」


「うん・・・・・・なんか起きてくるの遅かったから少し心配だったけどさ・・・大丈夫だよなッ!」


「そっか、ありがとう。でも全然心配ないよ」


「おう! どういたしまして!」






「はいはい、みなさん聞いて下さい」






八戒の手を叩きながら言った言葉で、何故か全員が大人しくなった。

いきなり静かになったところで八戒が今日の日程を説明する。






「まず、今日は僕と出掛けられる人で買出しに行きます。

 明日には出発ですからね、の生活用品とか必要ですしねェ」


「じゃあさ、俺と行きたい!」


「猿がぁ? だったら俺も付いてかねェと心配だわ」


「そうですか、じゃあも行きます?」


「そだね。私も行くよ、自分の物も買うんだもんね」


「分かりました。三蔵はどうします?」


「・・・・・・・・・めんどくせぇ」


「じゃあ、僕等だけで行きましょうか。三蔵はお留守番お願いしますね」


「チッ」


「あはは、なんか怒ってますねェ」







そんなことを言いながら買出しメンバーは揃った。

荷物持ち係が悟空と悟浄の2人と、買い物選択係が八戒とで2人。

三蔵はおうちでお留守番ということになった。

気に食わない顔で八戒に舌打ちをしていたが、買い物に行く気が無いのなら仕方が無いだろう。


ともかく4人は町へ出る。

最初に向かったのは呉服屋さんだった。

見た目がガラスのような透明感で溢れ、清楚な感じの店だった。






「八戒・・・」


「行きたい店、見つかりました?」


「あそこ・・・さ、見るだけ見てもいい?」





と、少し謙虚に尋ねてみると、八戒はすんなり許可を下す。

それは、ただの優しさから来た返事ではなくて。

唐突な新展開への鍵のようなものだったろう。

そして相変わらず他3人は各自で好きなように品物を見ている。






「っわ〜、綺麗な服・・・でもこんな服着ないし・・・」





そう言いながら思わずが手にとってしまった服。

白地に青い花のプリントしてあるワンピースだった。

ノースリーブだから今、立春にはかなり寒いだろうが、お構いなしに身体に合わせてみる。

サイズがぴったりだったことを少し残念に思いつつ服を所定の位置に戻した。





「・・・似合いそうだな、その服」


「そうかな」




後ろから耳元に声を囁きかけてきたのはもちろん悟浄。

彼らしい紳士的な行動だ、とは思った。






「それ買うの?」


「ううん、買わない」


「どうして? 似合うじゃねェの」


「でもね、こんな服着る機会無いと思うし・・・」


「じゃあ俺がそんな機会作ってやるよ」


「機会?」


「そ。き・か・い。任せときなさい!」






そんな時、後ろから優しい中に何か黒いものが混じった声が聞こえた。

もちろん八戒と悟空だった。






「へぇ、そんな機会どうやって作るんですか?」


「ま、まず悟浄には無理だな」


「八戒はともかく、猿なんかに言われたくねェっつーの」


「あ、は何か服決まりました?」


「え、えっ!? あ、ちょっと待ってて!」






慌てて店中を駆け回り、3着服を選択する。

それは今が着ている服のように和と洋の混じった服。

の手の中にはあのワンピースは無かった。





「こっ、これで!」


「いいんですか? 今とあんまり変わらないじゃないですか」


「もっと贅沢していいんだぜ? 三蔵と悟浄が煙草に金掛けすぎてるだけだからなら好きな服買っても何も言われないって!」





可愛らしく悟空が正しいフォローをしてくれる。

八戒も純粋に好きなものを選べと言い、悟浄もそれに続いた。

はここで話を無視するのも気が引けて、条件付きでワンピースを購入した。

その条件とは。







『機会があるまで八戒が保管してて』






ということだった。

まさに受験生が受験が終わるまでゲームを禁止するようなもので。

現役の保父さんこと八戒は快く承諾してくれた。






「じゃあ、悟浄がその『機会』とかを作るらしいですからそれまで待ちましょうか」


「そうだなー、一緒に待ってようぜ」


「・・・・・・おいおい、俺は無視かよ」


「どこに無視をしない理由があるんです?」





八戒の素敵な睨みによって悟浄は渋々降参する。

そしてが一言。





「3人とも、ありがとね」





まるで天女だろうか、というくらいの華の笑顔を3人に向ける。

悟空は頬を赤く染めて下を向き、八戒と悟浄は微笑み返した。

そしてまた次の店へと移動を開始する。

次に向かったのは普通の量販店。

ここでは食料と煙草の調達が目的だった。







「えっと、マルボロの赤ソフトとハイライトだっけ?」


「おっ、良く覚えてるな」


「私の伯父さんがマルボロのオリジナル吸ってたんだ」


「へぇ・・・」


は吸いませんよね?」


「そ、そりゃあまだ未成年だしさ」





当たり前のような話が弾む中で、八戒が次々と買い物籠の中に製品を入れていく。

恐ろしく手際のいい八戒を見て、は呆気に取られた。

自分は何か手伝えるきっかけも無いことに少しショックを受けつつ。






「じゃ、こんなとこですかね」


「そうだな」


「あ! 肉まんが無い!」


「ああ、底の方にありますよ」


「そっか、よかった〜」







後で八戒に本当に底の方にあるのかと聞いたら、嘘だった。

少しだけ『三蔵一行』という世界が分かったような気がした。






「ほら、帰りますよ」


「あっ、待って」





そう言って3人を追いかけた。

時間は掛かったけど、この人たちと一緒に居ると緊張がほぐれて楽で。

そんな人達に出会えたは、とても幸せだと思った。




まずは一件落着。

今日するべきことを終えて5人と白龍は明日以降の計画を立てた。

もちろん仕切ったのは八戒で、それに文句を言うのが悟空と悟浄で、意見を言うのが三蔵だった。






「じゃあ、一旦斜陽殿に戻りますか」


「そう・・・だな。まずはそうした方がいい」


「じゃあそういうことなんでよろしくお願いしますね、


「あ、分かりました」






軽く頷いては思う。

斜陽殿に行くことはなんとも思わない。

だが女人禁制だということに少しだけ不安を覚えた。






「大丈夫だって!」





そんな4人の声に励まされながら、旅への支度は終わった。






















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あとがき

ということで準備が終わったので次回から旅です(喜
白地に青いプリントのワンピース・・・どんなのでしょうね。自分の好みで書いてしまった服です。
どうかご容赦くださいませ。では、ここまで読んでいただいてありがとうございました!

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