朝早く彼女は学校へ行く。
『行ってきます』と言うの視線の先にあるのは笑顔の耐えない日常
綺麗な夕焼けのコントラスト
綺麗な夕焼けがあって。
学校帰りに駅の周辺を歩く私はなんだか切ない気分になる。
きっと、夏が終わりそうだからかな。
「はぁ・・・ガラじゃないかな」
本当にもう少しで太陽が隠れちゃうくらいの空が、ビルの隙間から見える。
ふいに、少し冷たい風が頬をかすめて通り過ぎた。
こんなに切ないのって、久しぶりだな、まだこんな感情になれるんだ、あたしって。
少し前に駅前のバス停で友人と別れて駅へ向かう少女は高校1年生。
勉強にも恋にも忙しく動き回る友達と、容赦なく宿題を突きつける先生に囲まれて生活している毎日。
たくさんの人が行き交う駅前はやっぱり切なくて、寂しくなってしまう。
ここで元カレに泣きつくのは簡単だけど。
友達に寂しいと伝えるのも簡単だけれど、
こういう気分もいいのかもしれないな、あたしには。
電車に乗って、自分の降りる駅へ着く。
ポケットから定期券を出して改札を通り過ぎると、明るい光の集まる街が見えた。
もう辺りは真っ暗なのに、
外灯やらなんやらがやけに明るく見えたから、やっぱ切ないね、夏の終わりって。
「ただいまぁ…」
「ちゃんおかえり。学校どうだった?」
「あ、うんとね、今日は・・・楽しかったよ。生徒会もあったし・・」
父と母、妹が1人いるなんの変哲もない家族の中で。
父は単身赴任で家には2週間に1回、週末に帰ってくる。
妹は部活動で疲れ、が帰ってくる時間にはもうベッドで寝ている。
この1日を大事にしてくれるのは母だけで、それゆえににとって母は大切な人だ。
でもさすがに。
親には話せない気持ちってあると思うんだよね。
例えば。
恋愛感情―とか、ね。
夏休みが終わって初めての通常授業がある金曜日。
授業が終わって、数学の補習を取っているあたしは重たい問題集を持って教室を移動する。
友達は部活に行きたいみたいで最近はまじめに授業を受けてない。
このままでこの進学校大丈夫かな・・・?
そんなことを思ってるこのごろだけど、あたしもちょっと変な感じがしてるんだよね。
『To:八戒先輩
本文:今日は補習なので遅れます。
迷惑かけてすみませんが、先輩も生徒会の仕事頑張ってください!』
こんな感じの少しネガティブなメールを送ってみる。
でも先輩は二言だけ『分かりました、ありがとう』って返信をくれた。
その二言がすごく嬉しいんだけど・・・あたしはおかしくなっちゃったかな・・・
メールを見ただけなのに授業に身が入らなくて困るな。
「、最近どうよ?」
同じ補習を受けてる友達が授業後に質問をしている子を待ちながら話しかけてくれた。
この子は入学したての時から友達で、いろんな相談もしてたんだ、
「何が?」
「先輩だって!」
会ってすぐは人の色恋沙汰に興味があるだけだと思ってたけど、
彼女はちゃんと親身になって考えてくれる。
しかも楽しみながら相談にも乗ってくれるのはすごく嬉しいんだけどね。
「メール来たよ〜っ!」
「マジで!? 見せて見せて!!」
「はい」
「・・・・・・・・・これ?」
「うん」
この子に見せたのは二言の文字。
「いいなぁ…は先輩と話してるときは女の子って感じがするんだよね〜」
「ちょっと待って、あたしって普段は女の子って感じしない?」
「って言うか・・・天然系? 話聞いてるだけでウケるもん」
「そっかー、先輩いい人だしフレンドリーだから仲良くしてて楽しいんだよね」
「じゃあウチらはそんなに楽しくない?」
あはは、と笑いながら冗談で明るい笑顔を見せる友達はなんだか可愛かった。
あたしはどんな感じなんだろ、世間から見たら・・・。
高校に入学してすぐにゴールデンウィークになって、夏休みになった。
入学早々担任に呼び出されて言い渡されたセリフが。
『生徒会やってみないか?』
とか言う内容で、
演説とかはしなくないって言ったんだけど、そしたら演説しない会計係に任命されちゃいました。
めんどくさいだけだと思ってたのに、いつの間にか気になる先輩ができました。
それが八戒先輩。
2年生で、保健委員の委員長さん。
最初は初対面なのに気さくで、廊下で会って挨拶すると絶対に気づいてくれる・・・
それだけで嬉しいなって思ってて、最近なんかは生徒会の話し合いをしてるとうちわで扇いでくれたり。
そんな些細な出来事があるたびにドキドキしちゃう。
♪♪♪♪♪♪〜♪♪♪♪〜♪〜
久しぶりにケータイの着信音が鳴った。
サブウィンドウには『悟浄』の文字。
そうだ、悟浄に相談してたんだっけな・・・
と悟浄は小中学校までずっと同じクラスで大親友だった。
恋愛感情が生まれるなんてことは全くなくて、なんでも暴露できる良い親友の仲だ。
だから今回の八戒のことも気兼ねなくメールで相談していた。
違う高校である上に八戒の名前も教えていないからか、電話までかけて来たというわけだ。
「もしもし〜? 悟浄?」
『? 今ヒマか?』
「うん、多分大丈夫。 補習も終わったから」
『でさ、お前先輩とやらとどうなった? 心配だったっつの』
「いろいろあったわさ」
『はは、何語喋ってンだよ』
そう聞かれて拒否する気も無かったから、今までのいきさつを話してみる。
『はぁ? ベタ惚れじゃん』
「そうなの? これってベタ惚れなのかな?」
『ぜってーベタ惚れだろ。 異常なくらいだな』
「そうだったの!? もっと早く教えてくれればよかったのに!」
『お前がメールしてきたのは昨日だろ!!』
「じゃあどうしたらいいっつのよ?!」
『まぁ仲良くしてけばそのうち気に入ってもらえるんじゃねェの?』
「そんな無責任な…」
『なんか状況が変わったらまたアドバイスしてやるよ』
「・・・・・・・・・そらどうも、とりあえず普通に振舞ってみるわ」
『りょーかい、頑張れよ』
「うん」
ケータイの通話を切って待ち受け画面にすると、メールが1通。
もちろん差出人は八戒先輩。
どうしよ、やっぱメール来るだけですっごく嬉しい。
なんかドキドキしてきた・・・
『From:八戒先輩
本文:今日、生徒会室に来てくださいね』
こんな少ない文の中に、一体どれくらい八戒先輩の考えが詰まってるんだろう。
ホントに少しかもしれない。
仕事が忙しかったのかな、話し合いでもあるのかな。
そうだとしたら、なんでわざわざ八戒先輩からメールが来たんだろう?
他の先輩も私のアドレスは知ってるハズ。
そう考えると嬉しい。
ココロが満たされていくイメージ。
少なくとも悪い印象は無いのかな。
複雑な乙女心は多様な顔を持つ。
一喜一憂しながらは生徒会室へ向かった。
「こんにちわ・・・」
真っ先に気づいてくれたのはやっぱり八戒先輩で。
私を認識すると優しく微笑んだ。
「さん、こんにちわ」
八戒先輩が私の名前を出すと他の生徒会役員の先輩たちも挨拶をしてくれた。
ふと生徒会長に呼ばれて話していると、八戒先輩が私に声を掛ける。
「さん、ゴミ捨て行きましょうか」
もちろん、1年の私に拒否権は無い。
「はい、お供します!」
しばらく歩くと職員用の下駄箱の前を通りかかった。
ここを曲がるとゴミ捨て場がある。
さあ曲がろうとしたとき、八戒先輩の口が開いた。
「僕は普段ゴミ捨てなんて行かないんですけど、今日はさんと2人きりで話したいことがあったんです」
そんな言動に翻弄されている私がいた。
ちょっとドキっとしたんだけど、やっぱり嬉しいだけで。
「そうですか・・・どうしたんですか?」
「ええ、実は次の集会で映像を流そうと思ったんです」
「ぇ、映像ですか・・・それは時間かかるかもですよ?」
「そうなんです。 他の生徒会のメンバーからもそういわれちゃってるんですよ。
だからさんと喋ったりなんかしたらきっと怒られると思ったんです」
「放送部に頼んでみたらどうです?」
「それも断られちゃいました」
ケロッと微笑む先輩は悪意ゼロ。
なんかズルいよ、私だけこんなに好きだなんて悔しいな。
「八戒じゃん」
「こんにちわ」
誰にでも仲良く接することのできるフレンドリーな先輩。
きっと一番落としにくいタイプじゃない?
生徒会執行部同士だからもっと近づけると思ってた。
やっぱそんなに甘くないね。
「さんはどうしたいですか?
次の集会なんですが・・・・」
「私は・・・・」
「どうですか?」
「うーん・・・放送部も協力してもらえないならあきらめるしか・・・」
「やっぱり?」
「私がもし放送部だったらそうして欲しいですよ」
「そうですか・・・さんが言うならそうしときましょうか」
「あんまり気にしないでくださいね、私の意見とか」
「あはは、そんな言い方しなくていいんですよ、信頼してますから」
やっぱり私は先輩が大好きで・・・
でも多分これからも想いを告げることは無くて、
こんな関係がずっと続いてもかまわない。
いつか死んじゃう自分なんだから、さ。
今、楽しめることを片っ端からやってみようかな、
きっと毎日が楽しくなる・・・よ。
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