お気に入りの雨傘


















「・・・・雨・・か」



ユニオン領土である梅雨の東京。

軍の指令でここを訪れていたフラッグファイター達は、つかの間の自由時間を満喫していた。

彼らの宿泊しているホテルの一室にグラハムはいた。

少し広めの窓ガラスから外を見ようとカーテンを開けると、水滴が景色を阻む。



「これはこれは・・意地悪な天気だ」



するとその部屋のインターホンが鳴る。

どうぞ、と部屋のロックを解除する。

ドアが開いた先には二十歳前後の女性の姿があった。



彼女はグラハムの信頼する部下の一人であり、グラハムは彼女を妹のように可愛がっていた。




「げっ、雨降ってるの?」

「そのようだ。 ・・・ところで、何か用事でも?」

「あ、そうそう、もうすぐ夕方だから一緒にハム料理でも食べに行かない?」

「・・・ハムだと?」

「うん!」




屈託の無い彼女の提案。

グラハムはそれに文句など言えず、夕食に付き合うことにした。



「じゃあ、制服のままなんか嫌だし・・着替えてからまた会いましょう」

「わかった。 それではまた迎えに上がろう」

「待ってますね、グラハム先輩」



グラハムは持ってきた私服に着替える。

夕食だから少しフォーマルな方がいいのか、それともハム料理に合わせてピンク色の服か。

そんなことを悩みつつも最後にはネクタイを締めて部屋を出る。

すると既に廊下にはの姿があった。



「あ、先輩!」



は青地に白いリボンのついたミュールにひざ丈で裾にレースが付いているスカート。

それにフリルの付いたシャツ。

いかにも乙女そのものだった。



「青か・・・涼しげだな」

「あー、足元ばっかり見ないで下さいよ! 今日は頑張って髪も上げたんですから」

「・・なるほどな、似合っている、とでも言っておこう」



はもともと肩まである髪をポニーテールにし、適度にコテで巻いた。

ゆるく巻かれた髪は服のフリルやらレースのように少女らしさを強調していた。

とりあえずホテルを出た2人。

傘を差し、2人並んで坂の多い東京の道を歩く。



「で、私達はどこへ向かっているのだ?」

「えっとね・・最近できた、ミシュランに載ってるっていう・・・・あれ?」

「どうした?」

「先輩って・・・もしかしてさっきより背が低くなった?」

「何も変わっていないが」

「あ、ヒール高いからかー」

「・・・・何?」



そんなことを話しながらは最新版の東京ガイドブックを片手に地図をなぞる。

MS乗りだからだろうか、空間認識能力には優れているだ。

あっという間にグラハムの手を引いて歩き出した。



「おっ、ここですよ」

「なるほど、君が好みそうな場所だ」

「先輩は・・こういうところ、好きですか?」

「ああ・・・嫌いじゃない」



たどり着いたのは小洒落たビル。

周りを噴水でなぞられる小道で囲まれ、近代的なフォルムの外観。

そして完璧に整備された自然が迎えてくれる場所。

その周りにはカップルや会社の接待をする人が多からずいた。



「よし、じゃあ行きましょう! ハム料理は地下1階みたいです」

「わかった」



完全にリードを許すグラハム。

だが内心それをじれったくも感じていた。



「わーぁ! 綺麗・・」



が歓声を上げるのも無理はなく、外観に見合う内装だったのだ。

地下1階から最上階まで吹き抜けの天井に、一番上から吊るされた水の糸。

まるで黄金をイメージさせるような照明に、は心奪われた。



「あ、これガイドマップですね!
 先輩、どこか行きたいところとかありますか?」

「いや、私は見ているだけで十分だ」

「そうですか? じゃあディナー行きましょうディナー!」



についていくと、日本風の障子で仕切られた一画にたどり着く。

通路の中央には竹が植えてある。

店の前には木製の小さな椅子が並び、中へ案内されるのを数人の客が待っていた。



「・・・・いいものだろうか、こんなに穏やかな日があって」

「そりゃ、毎日毎日フラッグだーとか言ってたら疲れちゃいますよ。
 せっかく東京来たんだから・・たまにはゆっくりできればいいなって思って」

「・・・・・」

「先輩のフラッグ・・・怖いんです。 先輩ごと持って行っちゃいそうで」



そう言うの肩は微かに震える。

グラハムはそんなの肩に手を置こうとした。

しかしその行為は店員の声に遮られる。



「次の方どうぞ、何名様ですか?」

「2人です」

「奥へどうぞ」



なにはともあれ腹が減ってはなんとやら。

そういうわけで2人は店内に案内され、メニューを渡された。



「じゃあね、私このハムで」

「私は・・ハム定食にしておこう」

「かしこまりました」



オーダーが決まると店員はお茶とお手拭を出し、去っていく。

すると入り口から大型のカメラが見えた。



「あれ? 先輩、あれって・・」

「テレビ局のカメラだな、どう見ても」

「わー、できたばっかりだから取材も来るんだ」



そんな世間話をしていると、その取材班の面々はグラハム達に近づいてきた。

グラハムが目線だけをそちらへ向ける。

するとその一行の記者らしき男が口を開いた。



「こんばんは、お二人さん。
 実は今、ここについて取材やってるんですけどね、ちょっとインタビューさせてもらえませんか?」



その言葉に2人は顔を見合わせた。

が頷くと、グラハムは記者に向かって頷いた。



「ありがとうございます。
 お二人は恋人同士なんですか?」

「そのようなものだな」

「・・っ、先輩!」

「そうなんですかー、お似合いですし可愛い彼女さんですね」

「あ、ありがとうございます・・」

「ところでお二人はどうしてここでデートをなさってるんですか?」



その問いにはグラハムが答える。



「彼女が僕をディナーに誘ってくれたのです」

「あらー、それは嬉しいですよね。男の立場からすると。 ね?」

「ええ」

「彼女さんはまたどうしてここを選んだんですか?」

「えっ・・!?
 あの・・・最近有名だし、先輩にゆっくりしてもらえる雰囲気がいいと思ったので」

「なるほど、確かにここは時間がゆっくり流れて感じられますよね。
 ところでお二人は東京にお住まいなんですか?」

「いえ、仕事で来ている」



グラハムが答えたところで、店員が例のハム定食を運んできた。

すると記者はインタビューを終了すると言う。



「あ、料理運ばれてきましたね。
 それではありがとうございました。
 今のインタビューは東京でしか放送されない番組でオンエアされるんですが・・
 よければ映像を送りますけど、いかがですか?」

「いや結構」

「そうですか、ではこれは粗品みたいなものです。受け取ってください」



記者が差し出したのは報道機関のロゴが入ったキーホルダー。

それも2人分だ。

それをグラハムが受け取ると記者たちは他の客にインタビューをしに行った。



一息つくと、が口を開いた。



「ハム先輩・・さっきのって・・」

「グラハムだ。 まぁ、とりあえず食事を頂くとしようか」

「え、あ、はい・・」



食事を始める2人。

はさっきのグラハムの発言に調子を狂わされたまま何も話さず、

グラハムはひとり優雅に夕食を楽しんだようにみえた。

食事が終わるとグラハムはレジへ行き、食事代を全額払った。



「先輩、私も払いますって」

「いや結構。 今日は気分がいい、私に払わせてくれ」

「・・・ありがとうございます」



2人はそれからも店の周りを歩き、雰囲気を楽しむ。

外へ出るともう辺りは暗く、周りに植えられた木や噴水によるイルミネーションが光り輝く。

雨上がりの地面に付いた雨水に光が反射して、そこはまるで現実ではないようだった。



「綺麗・・」

「・・君のようにね」

「もう・・そんなこと言うキャラじゃないでしょう? 先輩は」

「心外だな、私だってそう思うことはあるさ」



噴水が色を変える中、グラハムはの目線をしっかりと捕らえた。

状況に我に返ったは必死に話題を変えようとする。



「あ、そうだ、写真撮っていってもいいですか?」

「ああ、かまわない」



するとグラハムはイルミネーションに照らされる道を歩き出した。

はそんな風景を自分の携帯電話で映す。

グラハムと一緒に、その絵をデータに収めた。



「せーんぱいっ!」



はグラハムの耳元で何かを囁いて。

そのままグラハムの先を歩いて微笑む。

そこは、誰もいない静かな場所だった。

まるで世界には2人しかいないかのような気分にさせてくれる場所。



小さな水溜りを飛び越えるとはグラハムの方を見た。

グラハムもと向き合って足を止める。



「・・・・そうだ、

「・・嬉しいな、先輩にそんなこと言ってもらえて」



微笑むの肩を、グラハムは抱き寄せた。

小さく、その手で引き金を引いているとは思えないほど無垢な女性。

の囁いた言葉。















『私・・先輩の恋人で・・・合ってますか??』














不安げな、そんな声で言った言葉。

グラハムは雨上がりの澄んだ空を見上げた。



「綺麗な空だ」

「・・・そうですね」

「もう遅い、部屋まで送る」

「やった!」



告白をされたというのに全く変わらない彼女に若干の驚きを感じながら。

恋人であるという幸福に浸り、帰路につく。



「東京は坂が多いな」

「だってここ、東京の赤坂ですから」

「しかし、君は確かヒールの高いミュールを履いて・・」



グラハムは、の足元がおぼつかないのに気づく。



「靴擦れしている」

「え、バレた?」

「笑ってごまかしたってダメだ」

「・・・でも良いでしょ?
 好きな人の為に、背伸びして履いたミュールでできた傷。
 なんだか嬉しいじゃないですか」



呆れるようにため息をつく。



「はぁ・・少しは身を大切にしてくれ。」

「はーい」

「本当にわかっているのか?」

「多分」

「では、そういうことにしておこう」



2人は雨に濡れて、それから少し乾いた傘を片手に持ち、

もう片方の手を握りながらホテルへ帰った。



「・・そうだ、

「なんですか?」

「後で私の部屋へ来るといい。 足の靴擦れが気になる」

「そーんなこと言って、何かするんじゃないでしょうね?」

「さぁ、どうだろう。 しかし私は・・・我慢弱いのだよ」

「覚悟・・・しときます」




その後グラハムの部屋に訪れたは、次の日の朝ビリーがの部屋を訪れるまで自室にいなかったとか。



















ついにグラハム2作目なのねー(樹ちゃんか
グラハム素敵ですね!怖い顔だ!!
ミシュランに載った東京ミッドタウン。めちゃめちゃ素敵なトコですよね!
「山田太郎ものがたり」のロケ地ですよ!ニノと翔ちゃんが歩いたトコなんですよvv
全国大会行った時に夕飯忘れて写真撮った覚えがあります;
いやぁ、しかし酷い内容だ。さん! このことは是非水に流してやってください;;

2008.01.09


お題配布元→


BACK