大好きなケーキ屋さんのケーキ
「あーーーー声が変!!!!」
朝起きて早々ベランダで叫ぶ少女がいた。
名前は。
一応護廷十三隊、十一番隊第七席の女死神だ。
「あ゛ーあ゛ーあ゛ーあ゛ーあ゛ーあー? あっ!!」
試しに声を伸ばしてみると、少しだけ声が元に戻る。
は昨日の夜から調子が悪く、喉が痛い故に声がおかしくなっていた。
そんな体調不良のまま十一番隊、更木剣八の元へと向かう。
用件はもちろん『四番隊で休ませてくれ』と、一言言うだけである。
「おう! 早いな」
「あれ? 今日は少し美しくないようだね」
と遭遇したのは二人で仲良く歩いていた一角と弓親。
弓親の言葉は無視して現状報告。
「風邪ひいちゃったんだよね」
「ギャハハハハハ!! 何だよその声!! 隊長の真似でもしてんのか!?」
「うっさい! 何が隊長の真似だ!!」
「あ〜? いつもと同じ声だとは思ってねェよな?」
「・・・・・・黙らっしゃい♪」
とかなんとか言いつつもガラガラ声で応戦してみるが。
やはり病人というのは弱いもので。
「何だよ、お前元気なんじゃねぇか? あ、仮病のつもりか」
「違っ・・・ゴホッ、違うっての!!」
「ほら一角、も大変そうなんだから静かにしてくれない?」
「えー」
「も。美しい死神は美しく立ち振る舞わなきゃ」
そう言って自称美しい死神は髪をなびかせてみせる。
いつものことだから2人も全くなんとも思わないのだが。
弓親の行動も虚しくはその場にしゃがみ込む。
「っオイ、!」
「あ゛ーごめん。 『隊長にくたばって寝込んでるから休ませて』って言っといてくれない?」
「分かったよ。 じゃあは四番隊のところに行っちゃうんだね」
「そうそう、じゃーねー」
そう言い残してはフラフラと背景に消えて行った。
「なぁ弓親」
「何?」
「が心配だろ」
「いきなり何言い出すのさ?」
「別に・・・隊長どこ行ったんだろうな〜」
そして2人も隊長である更木剣八を探しに動き出した。
一角は心ここにあらずと言った表情で2人並んで歩いた。
一方こちらは四番隊救護詰所まで一応頑張って来てみた。
とりあえず顔を知っている死神はいないかと辺りを見回してみるがそれも希望は無かった。
「あの〜大丈夫ですか? あれ? さん?」
「花太郎〜ッ!」
「わっ、ど、どうしたんですか!?」
「一角があんまりこき使うから風引いた・・・」
「確かに・・・声凄いですもんね」
そういわれた瞬間ちょっとだけ腹が立ったが、この少年の雰囲気はそんなことすら考えさせなかった。
山田花太郎。
四番隊の隊員。
そして彼もまたと同じ第七席だった。
「ぞうなの〜今日少しだけ休んでいい? お願い!」
「それはともかく、まずは症状が分からないと。付いてきて下さい」
端から見ればとても頼りない男の子に見えるが、
実際にとってはここ四番隊の領域で唯一気の許せる友達だった。
そしてにはとても頼れる男の子でもある。
花太郎に言われるまま診察を受けた。
結果はただの風邪。
思ったとおりだったが、原因は不明だった。
「んー、どうします? 熱はありませんし・・・」
「休む!! ここで休みたい!」
「そうですか、分かりました」
の意地にもちゃんと対応してくれる花太郎。
一角や弓親とは大違いだ。
「・・・・・・で、なんで寝ないんですか?」
今現在はは寝ていない。
休みたいと言ったにもかかわらず、だ。
「だって花太郎いるし」
「そんなこと関係ないですよっ、ほらちゃんと休んで下さい」
「え〜? 眠くないもん!」
「元気ないんじゃないんですか?それじゃあ僕の立つ瀬が無いですからっ」
「ちぇ〜」
「大丈夫ですよ・・・僕は居なくなったりしませんから」
何気なく放ったその言葉にはなにか温かいモノを感じた。
すごく安心できる声だった。
そうこう揉めているうちには折れてベッドの中に深くもぐりこんで眠りについた。
「―さん」
「さん」
声がする。
すごく可愛い優しい声だ。
「っ!?」
「あ、さん。こんにちわ。もう最初に言ってた時間過ぎたのでそろそろ起きてもらわないといけないらしくて」
「うぃ〜っす・・・おはよ・・・」
まだ不完全に起床しているは、寝癖のついた髪を手で梳かしながら花太郎を見る。
そして身体を起こしたまま脳が眠っている。
「さん!」
「・・・なに・・・?」
「もう、本当におきてくださいよっ! 部屋だっていつも空いてるわけじゃないんですから」
「うん・・・」
「もし怪我人が運ばれてきたら・・・」
「あーそれは大変だねー」
むくっとベッドから立ち上がり、そして降りる。
だが床に足をつけた瞬間にフラつく。
「わわっ、だ、大丈夫ですかっ!?」
倒れかけたを半ば抱きかかえるように支えた。
頭が眠ったままの状態でいるだから、何が起こっているのかも理解せずに。
そのまま睡魔に襲われていた。
その時。
「、起きろよ」
「よーぉ!調子はどうだ?」
「ちゃん!起きてる?お見舞いにきたよーっ!」
「ってか・・・なにその体勢!?」
変な一団が病室へと駆け込んできた。
一団といっても人数は4人。十一番隊隊長、副隊長並びに第三席と第五席。
更木剣八、草鹿やちる、斑目一角、綾瀬川弓親である。
病室だというのに気遣いは全く感じられない4人が見たのは、端から見るとを抱きしめる花太郎だ。
「ちゃん?」
「・・・あ・・・・・・おはよう・・・ございます」
相変わらず何が起きているのかも理解していないを心配そうに見ているやちる。
だがそんなことよりもずっと頬を赤らめている花太郎のことが一同は気がかりで。
「…てめェっ! に何しやがった!」
「えっ!? 僕は何もしてませんよっ!」
「嘘だね。じゃあその体勢は何かな?」
「これは…さんが倒れてきたから・・・」
「言い訳はやめた方がいいぜ・・・なんたって俺達は十一番隊・・・しかも更木隊なんだからよ」
「言い訳じゃないですって!」
必死に弁解を求める花太郎。
約10分程かかったが、一応状況は把握してもらえたみたいだ。
というよりもむしろ4人は花太郎を歓迎するようにどこからか机を出して、部屋の真ん中に置いた。
「ぉし! 起きろっ! お前の好きだったらしいケーキ屋で買ったやつだ!」
一角は明るく弓親の持っていたケーキの入った箱を机上に取り置く。
急に対応が変わって驚く花太郎がを起こす。
「ほらさん、お見舞いですよ」
「あ〜?」
「ぉら!」
「何・・・?」
「ケーキ」
「・・・・・・・・・・・・ケーキ!? マジで!?」
「そ。マジで」
そんなこんなで先ほどまでの寝ていたベッドは、一角によって一瞬でテーブルと化す。
ケーキを乗せたベッドの周りに押しかけてきた4人と花太郎、が座った。
「ま、も元気そうだし」
「そうだね、美しくあるのだから」
「かんぱーいっ!」
少しフライングをした小さな副隊長に続いて一同はジュースを手にして何故か宴会を始める。
理由はの風邪が治りそうだから。
小さなチャンスをモノにする十一番隊は、やはり兵(つわもの)である。
「あ、そうだ」
花太郎が少しだけ呟くと、聞き逃さなかったが反応する。
「何?」
「いつでも風邪引いていいですよ、場所空けときますから」
「そりゃ…ありがとう」
愛も恋もあったもんじゃない十一番隊+花太郎。
でもこんな調子でいいと思う。
あわよくば、またケーキが食べられますように。
そんなことを、ケーキを口に運びつつは思った。
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