やっと買えたCD



















「やたっ!見つけたよー!!!」







店の中で胸元で小さくガッツポーズを取る女子が約1名存在する。

相反して声は無駄な上迷惑なくらいにハイテンションである。

制服を着たまま、太めのカチューシャを愛用し、ルックスだけで表現するならば元気で明るい美人。2月生まれのみずがめ座。

吹奏楽部又は文化系の部活の中でも厳しい部活に所属しているに加えて勉強もできるから現実にいるならそこそこモテるが、

漫画などでは主人公の友人としてしょっちゅう恋の応援をしつつ普通すぎる生活を営んでいるタイプだ(長い説明すみません

彼女の名前は

青春学園中等部3年6組在籍の女子生徒だった。







「ねぇ!見つけちゃったよ〜!どーしよ!?」


「どうって・・・良かったんじゃない?っていうかソレは何・・・?」


「これ?」






これはね、と手につかんだCDの説明を始める。

羅列された歌手の名前はと呼ばれるの友達の知る、一般の人の知らない名前だった。

それは声優である。



そう、彼女は俗に言うマニア。

悪く言えばオタクというジャンルの中の腐女子というカテゴリーに分類されるタイプである。

ちなみにそんなの友人のも同じである。






「あーっ!その方は!!最近王子様系のキャラやってる人だよね!?」


「そうそう!この漫画のこのキャラをやってて・・・」


「あー分かる。すっごいタイプかも」


「そうなの?じゃあ歌詞暗記したら貸すよ?」


「ありがとーっ!!」






これがいわゆる腐女子の会話である。

やっと買ったCDは、が長年探し続けていた8年前程に流行った漫画のバラエティCDだった。

8年も前の作品だが現在でも続編の登場によって人気がぶり返している作品で、特に声優が豪華だった。

そんな作品をがチェックしないはずも無く。

手に持っているCDを愛しいかのように眺めるのだった。






「じゃあ、買ってくるよ。ちょっと待っててね」


「うん」






数分後戻ってきたと共に駅へと向かう。

駅の目の前にある店だったので駅までは歩いて1分かかるかどうかといった距離だった。

中学に青春学園を希望し、小学校まで仲の良かった友達と離れて電車通学をしているは中3になっても地元の友達より帰りが遅い。

部活を終えた後に本数の少ない電車が来るのを待ったり、帰りに買い食いなどをしていればなおさらだ。

だがはこの青春学園での生活を毎日笑顔で過ごす。

全く不自由が無いわけではないが楽しくて仕方が無いのだから今の日常をすこぶる気に入っていた。






「今日何分の電車乗るの?」






そう尋ねられたは制服のポケットから定期入れを取り出し、電車のダイヤを確認する。

普通電車でなくては停車しない無人駅で乗り降りしているを、

普通でも快速でも新快速でも特急でも止まる大きくて中には本屋も揃っている大きな駅で乗り降りするはいつも同じ電車が来るまでまってくれる。

つくづくいい友達。

帰りになるとはそれを痛感するのだった。






「えっとね、59分かな」


「そっか、じゃあ上で待ってようよ」


「いつもいつもありがとね〜!」


「いいよいいよ。私も1人で電車なんか寂しいんだから」


「恩に着ます・・・」






本来の性分に似合わず堅苦しい謝礼を述べると、2人の前には電車が到着する。

しかも普通電車。

2人で乗ると、座席をみつけていつものように会話を始める。




ここで本来の性格を説明すると、名前は

一応先に述べたように、太めのカチューシャを愛用している。

制服を適度に着崩して、二の腕まであるシャギーの入った髪は意外と艶めいていて、毎日の努力が目に見えた。

かなり整った顔立ちであり、まつ毛の長さと鼻の高さは目を見張るものがある。そして特技は長座体前屈である(何

1年時には78cmという学園記録を樹立し、今もなおその記録はキープしている。

その記録と言ったらかの有名な青春学園男子テニス部のレギュラー陣の記録を軽々と超える超人的な記録だった。

中身はと言うとマニアなのだが・・・

人並みにはファッションにも気を遣っているためか、明るくよく笑う(というか爆笑する)ためか、男女問わず人気が高い。

オタクだということも学園公認状態であり、むしろそれが彼女の好かれる条件の1つなのかもしれない。

面白い人だと思われているが故、言い寄ってくる男子は人並み以下ではあるが、男友達は多い。

要約すると、さっぱりした美人の上案外気さくでテンションも高い。

そんな理由で人に大事にされ、逆に人を大切にするという封建制度が成り立つことで生活が充実しているのだった(違





「あ、ごめん。駅着いちゃった」


「うん、また明日ね」


「またね!」




が別れの挨拶の後降り立ったのは田んぼの広がる郊外だった。

自転車に乗って田んぼの中を進むと、やけに明るい街に出た。こういう明るい場所に駅を作ればいいのにとはいつも思う。

街の中を横切り、少し離れた場所にある自宅へ向かった。

さくらんぼの樹が植わっている庭では、もう実が成っていたので畑にある水道で洗って1つ食べてから家に戻った。




「ただいまー」


「おかえりちゃん」


「あ゛ー疲れた・・・」


「もうご飯できてるから夕飯にしよっか」


「おう」




母親の言われるままに食事を済ませ、風呂に入り、明日の準備をしたところではフリーになる。

時間はまだ9時だ。

こんなときにすることといったら・・・




「よし、ネットでもやろっかな」




まあ、この辺りがマニアと呼ばれる理由でもあるが。

この作品のヒロインの説明はこのくらいにして次の日に移る。

今日のは一段とテンションが高い。それは朝のニュース番組での占いでみずがめ座が1位だったことにある。





「あれ?じゃない。おはよう」


「おっはよ〜っ!どうしたの?こんな朝早くに来てさ」





に声をかけたのはかの有名な青学テニス部の名物レギュラー。

不二周助と菊丸英二。ともにのクラスメイトであり友達だが、想われていることにが気づいているかはまた別の話。





「あーおはよ!今日って選択あるでしょ?それに宿題もまだやってないとこあるし…」


「じゃあボクが教えようか?」


「あーっ!不二ズルい!俺も一緒に加わりたいよ!」


「じゃあ英二もだね、迷惑じゃなかったらどうかな?」


「それはそれは助かりますよ。ありがと!」






その笑顔を見て2人が微笑んだのは言うまでも無い日常茶飯事の出来事であった。

すっかり話し込んでしまい、3人で学校まで歩いているとはついテニスコート前まで来てしまっていた。

不二と菊丸が教えてくれなかったことがまだ悔やまれる限りだが、今日は助けてもらうのだ、と理性を落ち着かせる。





「見ていくかい?」


「何を?」


「テニス部の朝練だよ」


「いいの?」


「もちろん。ならむしろ大歓迎・・・かな。クスッ」


「何!?あたしって来るとそんなにウケがいいの!?そこまで面白い人間だとは思ってなかったんだけどなぁ・・・?」





自分を指差して爆笑するには不二の本意は更々伝わってなどいなかった。

なんと皮肉な彼の青春よ。





「ともかくさっ!も一緒に練習に行こうにゃ!」


「お、おう!」





美男子に囲まれているというのにロマンチックの欠片も無い集団はぞろぞろとテニスコートの方へ向かう。

朝から気合いの入っていない歩き方をしているのはだけであるが…。

とりあえずたどり着いた部室の前では待たされた。





「じゃあ着替えてくるから」


「待っててねーっ!」





そして待つこと1分(早っ

勢い良く飛び出てきたのは菊丸か・・・と思いきや。




「わっ!」


「おっと、すまない・・・あれ?か?」



片手で軽々とを抱きとめたのは菊丸ではなく、乾だった。

時間が空いたため小説を片手に突っ立ていると衝撃を感じ、その方向には乾がいた、という具合だ。




「ぉう!」


「おはよう。朝からそんなにテンションが高いとなると午後の授業の定着率が悪くなるぞ」


「え゛。それはちょっと困るかな・・・あはは・・・は・・・」


「まあ、今のお前なら大丈夫だとは思うが」


「それはどうもありがたき幸せッス」


「それにしても不二達は遅いな・・・いい加減出てきてもいい頃だが・・・」


「なにかあったのかな!?」


「いや、それは無いだろうが・・・あれか・・・?」




小さくつぶやいた『あれ』という言葉が、には届かなかった。

だがやけに口元の緩んでいる乾を見れば、何かあるに違いないと確信を持つのだった。

グラウンドの方を見てみれば、カギ当番である大石男子テニス部名誉副部長が走っているのが見えた。




「っ!!」




見えたついでに走っているレギュラー陣を見ると、2年生の海堂薫がこちらを見ていたのに気づく。

おそらくかなり長い時間走っているのだろう、既にポロシャツが汗で体に貼りついていた。




(こんな時にあの2人はまだ着替えてるのかな、海堂君すごいな…あんなに走ったらやせるどころか筋肉付いちゃうよ)




悠長に変な話を想像しているとようやく菊丸と不二が揃って部室から出てきた。

菊丸はに微笑んで、不二は軽くの頭をポンポンと撫でてやると、いつも以上に微笑みながらグラウンドに向かっていった。

しばらくテニス部員がグラウンドを走っている間、マネージャー的存在である乾はいろんなデータを教えてくれた。




「よく体力持つよね。あんなに走って」


「毎日走ればだんだんと慣れてくるものだぞ?もどうだ、おそらくいい運動になる」


「遠慮しときます」


「じゃあランニングの代わりにこの乾特製野菜汁スーパースペシャル…」


「遠慮しときます」


「お、ランニングが終わったみたいだな」


「遠慮しときます」←?





乾の放つ変なオーラの影響で『遠慮しときます』しか話さなくなったを見るに見かねたレギュラー陣。

『大丈夫か』と声を掛けるのは部長と海堂以外の全員という異例の人数だったが。

とにかく近くのベンチにだけを座らせて手に先ほどまで読んでいた小説を乗せてみる。

すると可愛らしいことに小説に魅入ってしまったようだ。




「全員集合!」




部長である手塚の一声によって部員は整列を始める。

体育の時よりも効率のいい並び方は乾の考案だろうか、とにかく全員集まったところでレギュラーは試合を始めた。

もちろん1年生は玉拾い、レギュラー以外の2、3年生は審判や自主トレをしている。

ふと乾が部員にトレーニングのアドバイスをしているとき、校門の方からは活気のある声が響いてきた。

もうこんな時間だ、とがケータイの時計を見て朝練もちょうど終わった。

これ以上の時間まで部活動を続けるとレギュラーのファンである女子生徒に囲まれ、まともな練習をするスペースが確保できないという顧問、竜崎先生のご提案だった。





、勉強熱心だね」





誰よりも早く制服に着替えて出てきたのが河村で。

いつの間にか小説が数学の問題集に変わっていたを斜めから覗き込む。

はベンチから立ち上がって状況を説明する。





「そうかな、宿題が終わんなくってさ」


「同じところやってるみたいだね、よければ教えようか?」


「ホント!?ありがとー!乾君にも聞いてみたのに説明が高度で理解できなくって〜!」


「はは、そりゃ乾だからね」




人の良い微笑みを浮かべてもう一度笑いながら鞄からノートを出し、河村は説明を始めた。

その時。




ーっ!!!!」


「あ゛ーっ!!」(注※


「タカさん悪いね。ボクたちクラス同じだから教室でボクが教えるよ」


「そ、そうなの…?じゃあがんばってね」





菊丸に背後から思いっきり抱きつかれてシャープペンが左手の指に刺さったは苦し紛れに挨拶を交わした。

そんなことは全く思いつかなかった為か、不二と菊丸はを半ば引きずるように教室に連れて行った。

3年の教室は一番上の階にあった。

中ほどにある6組の教室に入るとまだ来ている人は少ないがほとんどの人は『宿題丸写し』なる作業をしていた。





「で、どこがわからないんだっけ?」


「いえ、わからないのではなく終わってないだけにございます」


「照れなくてもいいんだよ?ボクが丁寧に教えてあげるから」


「じゃあ俺に教えてよー」


「英二はいつもだろう?」


「だってわからないんだもん」


「教科書読めばなんとかなるって…そんなんじゃ高校が大変だよ?」


はいいよな〜勉強できて」


「あたしは勉強できるんじゃないもん。授業聞いて宿題やってるだけだもん」


「それだけできれば上出来だよ、


「ごめんね、不二。せっかく教えてくれようとしてくれたのに・・・」


「大丈夫だよ、そのうち貸しは返してもらうからね」





不二は久しぶりに教室内で開眼して、再びにっこりと笑った。

一部の女子には殺人的なサービスであり、目の前の少女には殺人的な宣告であった。

このときだけは菊丸もに同情したとかしていないとか。

その後結局誰にも宿題を救ってもらえなかった菊丸は大石に泣きついて答え丸写しをしたそうな。

授業中に当てられても誰も心配しないという寂しい構図ではあったが。





たまたま出席番号と日にちの最小公倍数や最大公約数がφ(無し)だったので生きながらえたは、(説明長い

補習に出席した為部活動に参加できず今日も重い鞄を背負って徒歩とバスと電車と自転車で帰ることになろう。



教室を出たところで時計を見るともう遅いわけで。

ここまで遅くなると頼みのも先に帰っている時間だった。

とりあえず校門までは何事もなく帰ることに成功した。

が。






先輩どもっ!」


「ちぃーっす」


「あれ?また会ったね。やっぱりボク達何かの糸で繋がってるのかな。ふふふっ」





(あ゛ー気荷物が増えたかしら)




などと少し酷いことを考えたりしてみたり。

朝、乾に言われたとおりテンションが高すぎた為今のは疲れきっていた。

むしろ今すぐ布団に入っておやすみなさいと言いたいくらいだ。




「あーそうだね・・・きっとグロい糸で繋がってるんだろうね・・・」



(ごめん不二!もう限界だよ・・・早くバス来ないかな・・・)



「そうだ、先輩も一緒に帰りません?」


「寝てたら起こしてくれる?」


「た、多分」


「じゃあ一緒に帰る」









こうしてまともに意識が無いは帰路へとついにたどり着いたのだった。



(よし、ゆっくり寝ようかな)




















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