近所の可愛いあの子犬












遙かなる時空を越えて戻ってきた現実の世界。

でも、今隣に居るのは将臣君と譲君だけじゃなくて、もっとたくさん。

私が京に飛ばされてから、少なくとも1年経った。

無事にあの世界を救うことはできた。

でも八葉の皆と、白龍と、朔。

全員揃っていないと不安で、そんな日々を少しだけ恐れていた。

ただ、日常に戻りたくて選んだ戦う道。

それは『愛しい』っていう気持ちから変わっていって。

どんな状況だって、この10人ならやっていけるって思ったの。






さん」


「ん? 弁慶さん?」


「はい、何だか出掛けるみたいですね」






京に居た頃ならば博識で、何かを私に訊ねるなんてこと、滅多に無かったのに。

それでも私を頼ってくれる、こんな弁慶さんの行動が嬉しい。






「そうなんです。ちょっと学校に行ってきますね」






そんな弁慶さんは制服に着替えた私を見てきょとんとしてる。

想像なんて到底つかないから、今のうちに見ておくんだ、こういう顔。



いってらっしゃい、と弁慶さんは言ってくれた。

ただの挨拶なのに、私にとっては嬉しいことで。





「なんだ? どうしたんだ?」





九郎さんだった。

特に何も問題は無いけど、弁慶さんと九郎さんは現代にいてもよく一緒にいる。

私達の世界では義経と弁慶は主従関係みたいなものだけど、この2人は全く違う。

仲のいい友達―強いて言えば友達よりも仲間っていう言葉の方が似合う。





「別にどうもしてませんよ」


「そうか」


「はい」




安堵しているような表情を浮かべて、九郎さんは弁慶さんと話している。

私が玄関を出て行くとき、弁慶さんが小さく手を振ってくれたのが見えた。

嬉しかった。




現代に皆で戻ってきたのは季節で言うと秋か冬。

あの日は神泉苑からこの世界に戻ってきた。

茶吉尼天を倒したらもう夕方で、とりあえずってことで将臣君の家に行ったんだったかな。





「よっ」


「おはようございます、先輩」





そんなこと考えてたら、私服の将臣君と制服の譲君がいた。

もうすぐ学校が始まるのに、2人はまだのんびりしていた。

そんなことが気になって、訊ねてみた。





「あれ? 学校じゃなかったっけ?」






すると幼馴染は優しく微笑んでくれて。

将臣君は茶化すように私の頭を撫でた。




「先輩、兄さんが何歳か知ってますか?」


「え? 歳?」


「そうです。兄さんなんてもう21歳ですよ」


「そっか、ずっとあっちの世界にいたんだもんね・・・」





ずっと笑っていた将臣君も、今度は心配そうに私の顔を見た。





「お前…まだ気づかねぇのか? 俺、もう学校行ける歳じゃないってことだ」





そんな唐突な話、そう簡単には受け入れられなくて。

でも改めて考えると、そうだなって。

納得した。






「そっか、将臣君もう大人なんだ・・・」


「はい。 だからもう高校にはいけないみたいなんです」


「ま、気にすんなよ」






大それたことをさらりと言いのけてしまう将臣君が、

なんだか寂しそうに見えた。

譲君はまだ制服で、私も制服。

でも将臣君だけは違って、なんだか変な感じがした。





「じゃあ2人共、学校行って来いよ」


「ああ、行ってくるよ兄さん」


「うん、行ってきます」






すこしだけ寂しそうな顔で将臣君は見送ってくれた。

学校についても、席に座っても、将臣君はいない。

こんな気持ち、少し前までずっと感じてた。

唯一の幼馴染だったのに、ずっと会えなかった。

そんな疎遠な感じがすごく切なくて、寂しかったってことも覚えてる。


やっぱり、皆一緒がいいな。






譲君は私が校門に行くまでずっと待っててくれた。

それもなんだか嬉しくて。





「先輩、もう寒いですから」


「そうだね、待っててくれてありがとう」




そういったら譲君は何だか赤くなって下を向いてた。

そんなところがいつもどおりで安心する。




「と、とにかく帰りましょう!」


「うん」




帰り道はとても懐かしかった。

高校に通った2年間、毎日のように同じ道を通って帰った。

でも唯一変わっていたのは、ふと見かけた子犬。

どことなく九郎さんの金に似てたような気がする。

それが現代とあの世界との、繋がっている証拠だって、そう思えた。





「神子、おかえり」


「ただいま」




家に帰るより前に譲君の家に寄っていった。

それは何よりも先に、九郎さんにあの子犬の話をしたかったからで、

その話をしたら九郎さんも見たいって言ってくれた。

だからすぐに家に帰って、鞄を置いて着替えた。






「ほらっ! 九郎さん、あの子犬だよ!」


「そんなに騒がなくても聞こえている」




こんなときまで愛想の無い反応を示したあと、その子犬を見る。

私は馴れていたから余裕があったけど、九郎さんはそうでもないみたいで。






「・・・・・・・・・・・・すごいな」





ただ、ただじっと見ているだけだった。

その言葉しか言わずに、ずっと見入っていた。





「似てるよね? 私は子犬の頃の金を見たことが無いから分からないけど…」


「・・・・・・ああ、似すぎだ・・・」




心此処にあらず、そんな感じで。

いきなり話すのをやめたかと思ったら、すぐにこちらに向き直った。

そんな素振に少しドキっとしたけどすぐに収まって。




「さすがだな、


「えっ!?」


「よくこんなに似てる犬を見つけたな、たいしたものだ」


「いや、そんなに褒められても・・・」














































「ありがとう」






「いいですよ、今度は弁慶さんも連れてきましょう」





「・・・そうだな」















もう夕方も過ぎて、日没になりかけた頃。

冷たい風が2人の周りを駆け回っていた。

顔は寒いけど、体は暖かい。

そんな久しぶりに思い出した感覚を、私達は共有した。





遙かなる明日への希望を抱きながら

































後日談





「お帰りなさい、さん」


「ただいま」







「・・・・・・九郎、どうでしたか? 

 例の金は」



「ああ、本物かと思ったくらいだ」


「そうですか、さすがは神子ですね、僕も」









「僕も?」








さんそっくりの人に、めぐり合いたいですね

 僕の手が届かない今では・・・ね」




















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