流れ星に願いを










もう12月。

と有川将臣は丁度駅前で鉢合わせをし、家へと向かっていた。



「もうクリスマスの季節なんだね」



そんなことをふと呟いた。

それを将臣は聞き逃さなかった。



「11月のうちから準備してるヤツもいるんだろうな」

「あはは、そうかも」

「そんなヤツの気が知れないぜ」

「いいじゃない、夢があって」

「ま、それだけの心の余裕があるってことだろ。 羨ましいぜ」



少しの間、将臣は哀愁漂う表情を見せる。

いや、にはそう見えたのだろう。



「よし、じゃあ皆でクリスマスパーティやろうよ!」

「皆? 皆って誰だよ」

「八葉のみんなに決まってるでしょう!」



すると将臣の硬い表情は崩れた。

急に歩くスピードが遅くなったかと思えば、いきなり笑い出したのだった。



「ははっ、ホント、お前最高」

「なっ!?」

「気楽なこと言ってくれるぜ」

「駄目だった・・?」

「いや、おかげでこっちもクリスマスが楽しみになったってことだ」



状況が飲み込めないまま将臣につられても笑った。

ふと見えてくる2人の住む家。

将臣は少し自分の家を注視すると、に話しかけた。



「お前、ちょっと俺の家寄ってかないか?」

「そうだね、皆にも会いたいし・・・それに」

「それに?」

「今日はヒノエくんに携帯電話の使い方教える約束してるんだ」

「使い方だぁ? そんなもん、譲か誰かにやらせればいいだろ」

「もう、将臣くんは分かってないなぁ」

「そうか? まぁ、適当に頑張れよ」



そう言うと将臣はの頭をポンポンと優しく撫でた。

子ども扱いはしないで、と困ったように苦笑するのは

更に、それに負けまいと口を開く。



「将臣くんこそ、冬休みの課題。 ちゃんとやらなきゃ留年だよ」

「ははっ、お前よく俺にそんなこと言えるな」

「ええっ!?」

「俺はこういうときだけは運が良いんだよ」

「ずるいよー」

「こらこら、あんまひがむなよ。 もったいないぜ」

「何が?」



将臣は一瞬目を見開いたが、

すぐに微笑み返した。



「何がって・・それ聞くか? 普通」

「えっ? 変なこと聞いた?」

「まぁ・・しょうがないな」

「え?」

「『可愛い顔が台無しだ』・・ってことだよ」



は顔を真っ赤にして黙りこくった。

言葉も出ないほどに恥ずかしいのだろうか。

将臣は満足げに微笑むとの手首をつかんで自分の家へ帰った。




「ただいまー」



玄関には朔が迎えに出てきた。

リビングへと続く廊下の先からは暖かい会話がかすかに聞こえてきた。



「あら、お帰りなさい。 さっき窓から2人の姿が見えたから・・」

「そか、わざわざありがとな」

「あら? 、どうしたの? 顔が真っ赤よ?」

「そっ、それは・・・」



すぐに朔は将臣につかまれたの手首へ目線を落とした。

納得したとばかりに息をつく。



「分かったわ。 将臣殿、兄上が何か相談事があると言っていたわ。 聞いてくれないかしら?」

「ん? 譲はいないのか?」

「ええ、なんでも今日は弓の鍛錬をするそうだから」

「弓の鍛錬? ・・・ああ、部活のことか。 わかった、行って来るわ」

「お願いするわ」



将臣は足を重たそうに運び、廊下から見えなくなった。

その場に残されたを、朔は優しく迎えた。



「おかえりなさい、

「た・・・だいま」

「・・何かあったのね、私でよければ話を聞くわ。 久しぶりに2人でお話しましょう?」

「・・うん」



2人はその場を離れた。

リビングへ行くと、丁度敦盛と弁慶がテレビを見ていた。

画面に映し出されているのは、遊園地のクリスマスイベントの番組だ。



「敦盛くん、この光は全て電気という力で光っているそうですよ」

「神子の世界は本当に不思議だ・・これほどまでに美しい光がいつまでも見られるとは・・」

「ええ、儚い物のみが持つ美しさとは、また違った趣がありますね」

「全く・・・ああ、神子。 おかえり」

「おかえりなさい、さん・・・おや?」

「どうかしたのか?」

「いえ、少しさんの顔が赤いと思って・・・ふふっ、これは面白くなりそうだな」



なにか状況を飲み込めないまま、敦盛は辺りを慌てて見渡した。

そしてを朔は、朔が寝泊りしている部屋へ向かうため階段を登っていったのだった。



布団と机があるだけの、簡素な部屋。

しかし窓際に置かれている花瓶には朔らしく大人しい花が生けられていた。

部屋の中央に置かれた丸い小さな机を挟んで、と朔は向かい合った。

少し待つと朔はお茶を出してくれた。



「はい、お茶。 少し落ち着いたほうがいいわ」

「ありがと・・・」



そう言って、まだ熱いお茶を口へと運んだ。



「落ち着いた?」

「うん・・ごめんね、いつもこんなんで」

「いいのよ。 ・・・それに、恋をしている子って皆・・落ち着かないものなのよ」

「ふふっ、朔が言うと本当のことみたい」

「本当よ? だって、最近のって毎日将臣殿と一緒に帰って来るでしょう?」

「そっ、そうかな・・?」

「そうよ、いつも楽しそうだわ」



朔の言葉に、確かにそうだ、と過去を振り返る。

目の前で自分のために一緒に悩んでくれる友人がいることに安堵する。



「今日ね・・」

「ええ」

「・・・」

「どうかしたの?」

「ううん、ただ、『可愛い』って・・」

「言われたの? 将臣殿に?」

「う、うん・・・」



朔はため息をついた。

それは幸せを吐き出すようなものではなく、安堵の意が込められたものだった。



「それなら、私がこれ以上関わるのも無粋ね」

「えっ?」

「大丈夫、近いうちに幸せになれるわよ」

「幸せ・・に?」

「ええ。 がこんなに悩んでるなんて、思わなかったけどね」












何日か経った日。

久しぶりに学校で将臣を見た日、一通のメールがに届いた。




『From:将臣くん
 今日の放課後、掃除あるんだろ?
 終わったら・・教室で待っててくれるだろ?』




なんて強引な文章なんだろう、と彼らしいところに笑みがこぼれる。

同じクラスながらも昼休みに届けられたメールは、なんだか新鮮だった。



そして時間は進み、放課後になった。

丁度教室の掃除当番に当たっていたは仕事を終え、将臣が言ったように教室で待っていた。




「すぐ来るかな・・」



しかし予想通りにはいかず、仕方なく冬休みの課題を終わらせようと日本史の問題集を開いた。



「えーっと、僧命蓮の寄行を描いた作品は・・」

「信貴山縁起絵巻だな」

「ま、将臣くん!!」

「悪いな、待たせちまって」

「それは別にいいけど・・用件って・・何?」

「ごあいさつだな、もう少し期待してくれたっていいだろ?」



その声にはなんの反応も示さなかった。

将臣は肩をがくりと落とすと、急に真面目な視線をに向ける。





「え、何? どうか・・したの?」

「どうしたとか・・そういうのじゃねぇよ」

「そ、そっか」

「今日は・・寒いな」

「そうだね・・」

「ま、こうしててもしょうがない。 帰ろうぜ」

「え? 用事があったんじゃないの?」

「それは今学校じゃなくてもいいだろ、俺達はお隣さん同士なんだからな」



はマフラーを巻き、鞄を肩にかけた。

2人は下駄箱で靴を履き替え、自宅へと向かう。



「おい、よそ見するなよ。 転んでも知らないぜ」

「さすがに私でも転ばないよ」

「それが信じられないんだよ、お前の場合」

「失礼だなぁ」

「まあまあ、手・・つなごうぜ。 お前が転ばないように」

「え、あ・・うん。 いいよ」



そのまま将臣は繋いだ手を制服のポケットに入れた。

一瞬は身を固くした。



「お前の手・・冷たいな」

「そりゃあ、心があったかいから」

「よく言うぜ。でも・・お前が近くにいるのも・・・久しぶりだな」



の脳裏には京にいた頃の記憶がよみがえる。

あの戦場を九郎や弁慶たちと駆け抜けた日々を。

将臣と剣を交えたあの頃を。



「そうだね、将臣君は・・・あったかいね」

「俺はちゃんと運動してるからな」

「それって関係なくない?」

「ははっ、気にすることじゃないだろ」

「キリが無いもんね」

「まあな」



一呼吸置いて、将臣が再び口を開いた。



「今更・・・だけどさ」

「うん」

「俺はお前のこと、好きだから」

「あっ・・」



それは、望んでいた言葉なのかもしれない。

はいきなり出された彼の言葉によって、自分の言葉をなくす。



「なんか・・当たり前に思ってた感じだよな。
 今までは一緒にいるのが当たり前で・・幼馴染離れしないと彼氏もできない・・だなんてアドバイスしてたっけ。
 でも今はこんなに・・お前が・・のことが欲しいなんて・・な」



将臣から告白されたことに。

ただ、思っているだけじゃ駄目なことに決着をつけただけなのに。




「はぁ・・・幸せ」

「は?」

「すごくすき」

「マジかよ・・」

「なんか・・実感無いね、こんなこと言っても・・何も変化がない日常が続いてくみたいで」

「そうか? 俺は結構、楽しみだぜ」



少し歩くと見える2人の家。



「よし、じゃあ少し寄ってけよ。 茶くらいは出すぜ」

「朔がでしょ?」

「まあな」

「でも・・それもいいかもね」



門をくぐるとクリスマスイルミネーションが施された玄関がある。

なんでもこの間弁慶と敦盛が飾ったそうだ。



「っ?!」



急に腕を引っ張られたかと思ったら、

が気がついたときには将臣の腕の中にすっぽりと収まっていた。



「将臣くん・・」

「なんかもう・・離したくないぜ・・・・」

「うん、私も」



日が傾いた有川家には、抱き合う2人の影が、クリスマスイルミネーションによって映し出されていた。
































リビングから大きめの窓を通して外を見ていた弁慶。

何かに気づいたように敦盛を呼んだ。



「おや? 敦盛くん、僕らの飾りつけた玄関は・・綺麗に光っていますよ」

「本当か? ま、将臣殿!?!?」

「駄目よ、2人とも。 無粋なことはしないで」



空気の読める朔は、将臣とが帰って来るまで、

その大きめの窓の前を見張っていた。




「もう・・あんなところに長居したら・・風邪を引くわよ」





そして2人揃って風邪を引き、朔に2人まとめて看病されたのは、

ちょうどクリスマスの夜だったとか、そうでないとか。



























あとがき


遙かでクリスマスって難しいな、と思いながら将臣夢。
ラビリンスでクリスマスイベントがあるのでどうしてもそれが頭から離れません;
でもあの盤上遊戯をやりすぎて寝るイベントは大好きですねー。
ときめきますよw
そして、ここまで読んで頂いてありがとうございました!!!

お題配布元→


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