聖夜まであと1日









「えーっと、ホットケーキミックスを200gと・・」

「卵黄と卵白は分けましたか?」

「うん! さっきちゃんと6個分けたよ」

「先輩、これはグラニュー糖じゃなくて砂糖ですよ?」

「あっ! そうだった!!」

「ふふっ・・姫君は料理が苦手らしいね」

「ヒノエ・・神子にそんなことを言うのは失礼だ」

「いいんだよ、そんな所もの可愛らしさ・・ってね」



ボソッと呟かれたヒノエの言葉には顔を真っ赤にした。



「ちょっと、皆真面目に作ろうよ!」

「ああ、いい加減集中しなければ明日までに間に合わないぞ」

「堅いですね、九郎は」

「弁慶・・お前は焦らなさ過ぎるんだ」

「そんなことはありませんよ。 僕だってこれでも急ぎ気味に作業してるんです」

「どうだか」

「ヒノエくんもそれくらいにしてさ、続きやろう?」

「姫君の仰せとあらば」

「もう・・またそんなこと言って・・」



ヒノエをはじめ、八葉の面々のおかげで全く作業が進んでいないが、今日はクリスマスイブ。

明日のクリスマスパーティーに向けてスポンジだけでも作っておこうと思ったの意見により、

今日のうちに焼き上げる予定だ。


しかし予定は難航。

グラニュー糖と砂糖を取り間違えたり、作業を忘れたりと。

は途方に暮れそうだった。


なんとか全員の意思をまとめて作業に再び取り掛かる。



「譲くん、卵黄とグラニュー糖の方ってこんな感じでいいの?」

「はい。 もうホットケーキミックス入れていいですよ」

「よし、袋を切って・・・と」



の手つきをみて譲は慌てて制止させた。



「先輩! ちょっと待って下さい!」

「えっ!?」

「粉は少しずつ入れて混ぜないと」

「あ・・ごめん」

「いえ、続きは俺がやりましょうか?」

「ううん、最後までやり遂げるよ」

「ええ・・先輩らしいですね」



は粉を3分の1くらいずつ卵黄とグラニュー糖が混ざっているボールを混ぜていった。

だがしかし粉を入れれば入れるほど、混合されたものは硬度を増していく。

の腕もついに限界がきた。



「何これ・・重っ・・」

「貸してみろ」



九郎がの持っていたヘラを奪う。

これでいいのか? と軽々しく混ぜていった。



「九郎さんすごいですね」

「そんなことはない。 それより、お前が普段から体を鍛えていないからいけないんだ」

「そんな言い方しなくたっていいじゃない!」



熱を上げていく口論を弁慶が止めた。



「まあまあ、さんは卵白のほうをお願いします」

「え? あ、分かりました」

「九郎、あんな言い方しなくてもいいじゃないですか」

「・・すまなかった」

「それはさんに言って下さい」



一方、は泡立て機を使っても変化の少ない卵白に悪戦苦闘していた。



「はぁーあ、これは待つしかないかな」

「神子」

「こんにちは、敦盛さん」

「確か・・譲が卵白は時間がかかると言っていた」

「そうなんですか、じゃあ待ってようかな」

「腕は痛くないか?」

「腕ですか?」

「ああ、先ほど疲れていたようだった」

「わざわざ心配してくれたんですね、ありがとうございます。 でも大丈夫ですよ、泡立て器は結構軽いですし」

「そうか。 しかし辛くなったら私に言うといい。 私にも手伝わせてくれ」

「わかりました。 ありがとうございます」



そう言っては敦盛に微笑んだ。

敦盛はその笑顔に見惚れていたが、少しもしない間にヒノエにキッチンから連れ出される。



「敦盛、お前もスミに置けないじゃん」

「ヒノエ・・! いや、そんなことはない。 私はただ、自分のできることをしたまでだ」

「相変わらずお堅いねぇ。
 もう少し自分を派手にしてもいいんじゃねぇの?」

「私は・・これでいい」

「そうかい。 まぁとりあえずさ、姫君の作る『ケーキ』とやらを楽しみに待とうぜ」

「・・ああ、楽しみだな」



そんな会話があったことなどつゆ知らず、はひたすら卵白をあわ立てる。

少しすると混ぜた形が残るようになってきた。



「譲くん、譲くん!!」

「どうしました?」

「こんな感じでいいの??」



は手元のボールを譲に見せる。

譲はが持っていた泡立て器を持って、軽く混ぜてみる。



「ええ、大体こんな感じで大丈夫だと思います」

「じゃあ次は混ぜなきゃね!」

「はい。 さっき作ったボールに、この卵白を少しずつ入れて混ぜて下さい」

「よーし!」



腕まくりをすると、ヘラを使って卵白を卵黄のある方へ入れた。

そして、切るように混ぜる。



「ストップ!」

「またーぁ?」

「先輩、これを混ぜるときは周りを巻き込むように混ぜるんです。 こんな感じに」



譲は器用にどんどん卵白を種に練りこんでいく。

ボールの内側に付いた種と卵白を内側へ巻き込むように混ぜる。

するとみるみるうちに種は柔らかくなり、みずみずしい光沢が見えた。

そんな行為をしばらく繰り返していると、玄関から景時の声がした。



「みんなー! コーヒーと紅茶ってのを買ってきたよー!」

「それもクリスマス特価で安い奴だぜ」

「うむ、理にかなった買い物だった」

「しっかし寒かったなー」

「うんうん、やっぱり空が暗くなると気温も下がるみたいだね」



それに気づくと譲は玄関へ向かっていった。



「兄さん、じゃあしばらく待っててください。 もうすぐでキッチンが空きますから」

「じゃあ作るのは景時に任せるわ」

「おっけー」

「俺は味見係ってことで」

「まったく兄さんは・・・しょうがない人だなぁ」

「おいおい、俺をと一緒にするんじゃない」

「何か言ったー?」

「良く聞こえてんなぁ、



だが肝心のは種と卵白を混ぜるのに必死だった。

ひととおり全てを混ぜ終えると、用意された型に流し込む。

それをオーブンに入れて焼けばスポンジの完成。



ピッ



「これでいいかな?」

「先輩、終わりましたか?」

「うん」

「じゃあ景時さん、飲み物の用意をお願いします」

「うんうん、任せてよ」



しばらくすると、紅茶独特の芳醇な香りが漂う。

リビングに勢ぞろいした八葉は、それぞれ好みの紅茶をすすりながら一服をした。



「そういえば、さんは意外と料理が上手だったんですね」

「意外とって何ですかー?」

「ふふっ、空気を読めない男は最低だね」

「君に言われるとは思いませんでしたよ」

「そ、そろそろ焼ける頃ではないだろうか?」



敦盛がそう言うと、丁度オーブンの終了を告げる機械音が鳴った。



「あ、終わりですね」



がオーブンを開けてキッチンのテーブルにそれを置く。

10人強で食べきれるほどの大きな型には、最初より大きく膨らんだスポンジが焼けていた。



「明日が楽しみですね」



のその言葉に、八葉の誰もが頷き、明日の聖夜を待ち遠しく思った。


























fin.



















あとがき

これだけの話です(爆
なんかのほほんとした日常が書ければな、といった心持です。

メリークリスマス!


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